※サーヴァントの真名が書いてあるので注意 『 ・・・・・・・。』 詳細設定 企画エントリーシート+ ・人物  仮面の戦士タイダー。石枝の平和を守る為、時空を越えてやってきたスーパーヒーローである。  そのすべてが謎に包まれており、本人も多くを語ろうとはしない。  しかし言える事は、冷たい仮面の奥に優しい眼差しを隠している事。非道を許さぬ熱い心を、総身に宿している事である。    彼は果たして、あの男なのだろうか。  幾度の聖板戦争を潜り抜け、時間と空間を越えて信ずるものの為に戦い続けた、あの男なのだろうか。  それを知る術はない。  大切な仲間と罪無き街の人々を守るべく、今日もタイダーは戦い続ける。  散っていった者達の思いを、胸に。 ・方針(聖板戦争での立ち回り方)  タイムマシンの飛行能力による機動性を生かし、あちこち飛び回ってパトロール。そして戦争で被害を受けた者達のレスキュー活動…というのが   本来の彼のスタイルなのだが、今回はタイムマシンがない。仕方が無いので目取真重雄のチームに属し、彼らと共に行動する事となる。   チームは諸事情から魔術組織に狙われており、度々襲撃を受けるのでこれの防衛がメインの方針となる…。   やはりタイダーとしてはもっと市井の人々に対して、レスキュー行為を積極的に行っていきたいようであるのだが、   仲間を守る為だからやむを得ないと割り切っている。それでもついつい人助けに駆けつけて目立った行動をとってしまう事があり、   敵に発見される事態を招くのもしばしば。チームメンバーは最初は迂闊だとなじりもしたが、やがてその行動をしょうがないと許容するように。   …終盤間近、仲違いによりチームは解散。これを止められなかったとタイダーは責任を感じ、直後に組織の急襲を受けて捕われた目取真らを救出すべく   アニーと共に敵の本拠へ向かう。そして、悲劇が起こる…。 ・戦闘スタイル(強み・弱点含む) 強力な重力操作攻撃が可能だったかつての乗機・タイムマシンが無いので、広範囲攻撃力や機動性が大きく低下。   しかしその分、強力な近接戦用武器と高い防御力を誇るスーツを得て、前衛でも充分に戦えるようになっている。   よってサーヴァントであるアニーの支援砲撃を受けつつ、積極的に相手と斬り結ぶ戦闘スタイルがメインとなる。   また精密な遠距離射撃ができる武器もスーツに内臓されている為、後衛に下がって支援攻撃を担当する事も可能。   正直、今回のタイター…いやタイダーは笑いを捨てただけ強い(面白みもないが)   以前は怪しげな機械群『 未来デバイス 』を使用したトリッキーな戦法を得意としていたが、   第二次聖板戦争でほとんどのデバイスを奪われてしまったので今はドライヤーつき掃除機くらいしかない。 ・戦闘時相性の悪い相手・良い相手  神秘と縁遠い科学の戦士である為、自身の霊性が低く魔術に対する防御能力が著しく欠如している…  というのがこれまでの彼の弱点であった。しかし対魔力効果を備えたスーツ、魔力エネルギーを用いた武器、  これらの装備の力で、苦手だったキャスタークラスのサーヴァントとも互角以上に戦えるようになっている。 ほぼ全スキルに代用可能な『運命認知』の存在もあり、相性を選ばぬ戦いぶりを発揮できる。  ただ乗機であるタイムマシンが無いので、高い機動力を持つライダークラスとの戦いは若干不利となっている。 ・性格的に相性の悪い相手・よい相手 弱きを助け悪を挫く、まさに正義のヒーロー的性格。かといって狭量な訳ではなく、怒りより悲しみで行動する。   行動の端々に本人の人の良さが現れているので、割と多くの人間とそこそこ巧くやっていけるようである。   ただしその異様な風体から、最初は不審者扱いされ警戒される事が常である(子供受けはよい)   かつてタイダーは悪心に染まり、他者に害をなした事もあった。人の弱さが悪を生む事もある…それは身を以て知っている。   ゆえに彼の正義の行動は決して主義や思想の類ではなく、ただ世界に対する深い愛情の成せるものなのである。   第二次聖板戦争で出会った友は、平和を愛する心を教えてくれた。   第三次聖板戦争で出会った友は、まず隣人を愛せよと教えてくれた。   二人とも今はもういない。次はタイダー自身が、彼らから受け継いだ愛の心を、若き後継者達に伝える番だ。 ・サーヴァントとの関係   元は第二次聖板戦争の時のサーヴァントから支配権を移譲された使い魔。しかしかわいい妹のような、娘のような存在として見ている。    あちらはタイダーに対して気があるようだが、彼はまったくその気持ちに気づいていない。   戦闘の際は気心知れた者同士、抜群のコンビネーションを見せる。   ただ、天然ボケの彼女の言動に振り回される事もしばしば。 ・チームの仲間たちとの関係  ★目取真重雄 ⇒ 目取真の秘められた英雄性? をなんとなく察し、自分の意志を継がせられる見所のある若者だと思っている。          この地球上で彼の力を評価してくれる、唯一の存在がタイダーかもしれない(笑)          しかし、その変態的挙動を目にする度に自分の洞察力に自信がなくなってくる…。          普段は同じチームのリーダーである目取真を立て、徹底してサポートに回る。  ★小田吉法子 ⇒ 目取真と同じく、明日を担う新しい世代の一人として期待をかけている。          一時はお節介にも目取真と彼女をくっつけようとしたが、うまくいかなかった。  ★藤八水   ⇒ 前回のサーヴァント・八戸太郎天空と同じく、組織に命を狙われる彼を守る事が、今回のタイダーの至上目的。          一見完璧そうな八水の芯の脆さを見抜き、なんとか力になってあげたいと考えている。  ★ディオゲネス ⇒ 大の苦手。近寄るだけで吠えられたり噛みつかれたり、おしっこをかけられたり…。           なんとか仲良くなれないかと思い、エサをあげたり散歩に連れてってあげたり小まめに世話をするも、やっぱり駄目。  ★徳川家重  ⇒ 苦手。家重の方はタイダーのかっこよさに大興奮、スーパーヒーローと讃えてじゃれついてくる。          ファンができたと内心喜ぶタイダーではあったが、そのあまりに無邪気な瞳で見つめられ逆にプレッシャーとなっているらしい。          このスーツと仮面は、情けない自分の本質を覆い隠そうとする臆病者の殻なのだから…。          それでも、彼女の期待に応えようと奮闘する日々である。 ★織田教長  ⇒ 立ち位置的に、なんとなくライバル的な関係。両者とも年長者としてチームの若者たちをまとめる立場にあり、          同じく前衛で剣を振るう間柄である。基本がヘタレであるというところも似通っている。          そんなこんなでぎこちなかった二人であるが、似た物同士で打ち解けるのも早かった。          タイダーの情を婦女子のごとき甘さである…と度々批判していた教長も、いざ自分が傷ついた時に優しくされると弱かったw  ★アニー   ⇒ サーヴァント。上記参照。  ☆八っつぁん(八戸太郎) ⇒ 三次戦争のサーヴァント。はぐれサーヴァントとして一人彷徨っていた八っつぁんに、かつての友の面影を見て契約する。                彼の存在を巡って複数の魔術組織の争いに巻き込まれる事になる…。  ☆林黒児(リン・ヘイエ) ⇒ 三次戦争でのチーム仲間。既に戦死。身勝手で自己中心的なその言動に頭を痛めるも、なんのかんの言って仲間の為にがんばってくれた。  ☆藤原信長  ⇒ 三次戦争でのチーム仲間。既に戦死。その浮世ばなれした言動をいまいち理解できず、もっと仲良くすればよかったと後悔している。  ☆スペースブラザーズ ⇒ 三次戦争でのチーム仲間たちでタイターの使い魔。金星人オーソンの他、火星人ファーコン、土星人ラミュー、グレイの四人。              長い間共に平行世界を旅した友人達である。全員、前回の戦いで死亡したと思われていたが…。 ・クロスオーバー的関係 ※一方的な国巣の妄想であり、各作者様の許可を得ていない非公式設定です。幾つもある平行世界のひとつの出来事とでも思っていただければ。 《三次聖板戦争》 ■生白 尚士        狂気の医者。三次戦争で、タイターに大きな影響を及ぼした人間の一人。  ■四季条 梓希        葛の葉の魂を宿し、サーヴァント化する力を身につけた心優しき少女。タイターいた未来世界と、深い関わりがある事が判明する。  ■アルシャンク        妖術師にして世界革命を標榜する秘密結社・暦(カレンダー)の大幹部。タイターの心を翻弄し、その苦しみを嘲笑う。  ■妲己        第一次聖板戦争で遭遇して以来、ある理由から勝手に仇敵だと思っていたが、今回タイターの勘違いであるとわかった。ごめん。  ■ロキ        変幻自在のロキにはどの平行世界でも見事に騙され、言いようにからかわれっぱなし。すっかりロキ恐怖症になってしまった。        第三次戦争ではスピカとして登場していたが、まったく気づかなかった。変身というより別人格だから仕方ないかも…。  ■ワビット        ワビットのネバーランドに連れて行かれた子供達を助けようと、子供のフリして目取真と共に潜入。当然騙しおおせる訳もなく、遊園地ネバーランドは        サーヴァント『 都市伝説 』の力で処刑監獄化。都市伝説が呼んできたトンカラトンやスレンダーマンまで出現し、あまりの恐怖に泣きながら逃げ回る二人。        その後、応援に来た法子ほか複数のマスターがネバーランド各所に散らばる『 紙切れ 』を集め、ワビット攻略に成功。だが、本当にワビットは消えたのだろうか…?  ■エキドナ        第二次聖板戦争で彼女を襲撃した過去のあるタイター。会って即土下座し、今はもう敵意がない事を一生懸命アピール。        エーベルハルトとの決戦で彼女が消滅した事を噂で知っていたので、その復活を素直にお祝いした。  ■倉木 未来        彼女の特殊な能力に目をつけ、利用しようとする悪のマスター達との戦いに参加。灰原怜治とも知己を得る。その後、様子を見るのに度々彼らの元を訪れる。        タイターは何度も彼らをチームに勧誘しようと思ったが、未来の異様な力に怖れがあった事もあり、うまく声をかけられなかった。  ■月神 詠也 八戸太郎天空と同じく、その特別な力を魔術組織に追われている者・月神。逃亡生活中にタイターらと幾度か手を結び、追っ手を迎撃する。  ■千子 村正        "ぷーる"に行くため、なんでも屋の仕事の猫探しをする千ちゃん。せっかくなので手伝おうと思い、引っ掻かれて血まみれになりながら野良猫を十匹ほど連れてくるタイター。        が、ものの見事に全部ハズレ。ぷんすか!!  ■狩谷修治        彼の悲劇的な未来を予感し、なんとかそれを回避する手段を模索。結果、数々のとんでもない作戦を行ってしまう…。彼は結局どうなったのか。それがいつか語られる事を望む。  ■牧裏 灯尋        特別面識は無いのだが、実は八戸太郎を狙う魔術組織のエージェント達を、タイターの知らぬ間に街でバッタバッタと薙ぎ倒していたのが彼女である。        灯尋がいなければ、とっくにタイターらは組織に捕獲されていたのは間違いない。そういう意味では感謝してもしきれない相手なのだ(笑)  ■エルネスト        ある事情によりエルネストを倒そうと、彼のアジトに潜入。しかし仕掛けられていた罠にかかり、タイターチームはあわや全滅しかける程の大怪我を負ってしまった。  ■グリード        知り合った友人マスターの一人が、魔動生命体グリードによって倒された(同化吸収された)…との報せを受け、タイターは複数のマスターたちと共闘してグリード討伐作戦に参加しようとする。        しかし作戦決行の数日前、タイターチームは全員大怪我(エルネストのトラップによって)してしまい参加が不可能に。結局、集った者達もグリードの特殊な能力に手も足も出ず作戦は失敗に終わる。        タイターはグリード打倒の為、チームの仲間たちと情報収集を開始するのであった。だがタイターとの対戦前に、南条鷹・長谷ちはや・アンノウンらの活躍によりグリードは敗れたという。  ■南条 鷹        第二次聖板戦争で顔見知りとなった、さすらいのギャンブラー南条鷹。彼が今回の戦争でどういった事件に巻き込まれたのか、すべてが終わった後にタイターは知る。        一人の女性の為に鷹が見せた男気に、胸を打たれるタイター一行であった…。  ■咲滴 兆        第二次聖板戦争の時から知り合いである、タイターが密かに頼りにする占い師のお兄さん。ぶっちゃけ彼の占いで何度も助けてもらっているが、タイターの名誉の為にその詳細は語れない(涙)               第三次戦争でタイターの身に起こった悪い事はだいたい、兆の占いに反した行動をとったせい。良い事はだいたい、兆の占いのとおり行動したせい(タイターの主体性って一体…。)        兆の姉探しに協力しようと街を探し回ったが、結局それらしき人物をタイターは見つけられなかった…。  ■咲滴 流        兆の姉。攪拌の起源を持つ強力な魔術の使い手にして愉快犯。起源の力で姿が他人から見えないのを良い事に、あちこちで混乱を巻き起こしては悦に入ってる。        こっそりタイムマシンに乗りこんで移動してたり、それとなく危険人物のいる場所に誘導されたりと、知らぬ間にタイターらは酷い目に会わされているようだ…。        弟に助けてもらった分と姉に酷い目にあわされた分を合わすと丁度プラマイゼロ。  ■積木 理        新聞記者・積木景の弟。兄から話は聞いているが、直接の面識はない。ただし理もまた平行(並行)世界を認識することで、世界間の干渉・移動を可能とできるらしい。        いつかどこかの世界で、彼とタイターが巡り会う時があるかも…。 ・聖板にかける願望   願望は無い。かつてあったような気がしたが、遠い記憶の彼方だ。   だがもし聖板を手に入れる事ができたら、彼はこう口にするだろう。   これまでの聖板戦争で失われたすべてのものを、元に戻して欲しいと。  ・セリフ  『 横着ッ!! タイダーは時空要塞グランアスカから発射されるエネルギーを浴びて、僅か1ミリ秒で横着を完了するのだ! 』  『 タイター? …知らんな、そんな情けないダメ野郎の事は 』  『 熱い…このスーツ熱過ぎる…。脱ぎたい…。 』   『 それでも、我々は前に進むしかないのさ。道半ばで力尽きた者達の思いを引き継いでね    任せたぞ目取真くん。次のリーダーは、君だ 』  『 勝利の時は来た! 訪れるのは、俺が望んだ世界なり! すべては運命の扉の選択である! 』  『 ああ――――そうか。ついに帰ってきたんだな。ずいぶん遠回りを、してしまったよ…。 』 ・イラスト・小説などの二次創作使用の可否   かまいません。 ・その他自由スペース   -------------------《以下、おまけ設定解説》----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 以下、とても長い話なので読まなくてもよいです。 誰かに読んで欲しいというよりも、キャラクターの足跡を残したいという気持ちで書いたので…。 時間がなく文章も推敲してないので、かなり見難いはず…。 【タイダーの正体】  仮面の男・タイダー。その正体であるが…  謎である。    しかしこれまでの聖板戦争を知っている者なら、彼と関わりが深いと思われる人物が一人、思い浮かぶ事だろう。  それは第一次聖板戦争で『 ジョン=タイター 』と名乗っていた、未来人のサーヴァントである。  第二次聖板戦争では『 スーパータイターZ 』、第三次聖板戦争では『 グレートローニンタイターΩ 』を名乗って参戦していた。  ある事情により、タイター=タイダーと明言する事はできない。しかしここでは便宜上、  タイダーとタイターを同一人物として扱い…話を進めてゆく事とする。  その秘密は、いつかどこかで明かされる時がくるかもしれない。 【生前のタイター】  英霊ジョン=タイターは生前、未来世界の危機を救うべく危険な任務に志願する。それはタイムマシンに搭乗して過去へゆき、  ある特別な機能を持つコンピューターを入手する事だった。結果見事に任務を成功させ、彼は未来世界に帰還。そこで英雄と讃えられる事になる。  ――――しかし、そんな栄光と賞賛は彼にとってまやかしに過ぎなかった。何故なら帰還したはずの未来は、彼の故郷である世界とはよく似た別の平行世界だったのである。  具体的に言えば、幼馴染みの娘・マヤシーが似ても似つかぬマッチョな女になっていたり、  親友だったキモ男のダルルが美人の嫁を貰っていたり、友人の男の娘がガチで娘になっていたり、美人助手が二重アゴになっていたり…。  やがて精神を病んでいったタイターは酒浸りになって体を壊し、故郷の世界に帰りたい…と言い残して淋しい最期を迎えたのだった。 【第一次聖板戦争でのタイター】  そして、始まりの聖板戦争が開幕する。老いて余生僅かな大御所SF作家・高松右京に召喚されたサーヴァント・ジョン=タイターは聖板を入手し、  今度こそ自分の故郷である未来世界に帰還しようと願った。その戦いぶりをSF小説として書きたいと願ったマスターの右京だが、戦争開始間もなく寿命により病没。  タイターはいわゆるはぐれサーヴァントになってしまい、魔力供給の手段を求めてやむをえず『 魂狩り 』を実行。未来科学の道具で人々を襲い、生体エネルギーを奪取してまわる。  そんな所を他マスターに発見され、あっさり敗北して逃亡。その後も自らの非力ゆえに勝利する事ができず、逃げ回ってる間に聖板戦争は終了。  この結果を受け止められないタイターはタイムマシンで時間を遡り、自分が勝つまで聖板戦争をやり直す事を決意する…。  過去の自分と鉢合わせしないように気をつけ、時には平行世界の自分の召喚を妨害したり、時には邪魔だと眠らせたりして幾度も聖板戦争を繰り返すタイター。  そんな事を続ける内に精神は磨耗し、英雄であった彼はただ聖板を求めるだけの狂人と化してゆく。  ついに手段を選ばなくなったタイターは、悪のはぐれサーヴァント軍団の傘下に加わり、なりふり構わず聖板を求めるようになるのだった。  その未来科学技術をもってサーヴァント軍団を積極的に支援。しかし同じ軍団の面子との確執から内部分裂を起こし、足並みが乱れたところを有志のマスターたちの協力で倒される。  そのまま死亡、消滅するはずであった所を時空の旅人・サンジェルマン伯爵に救助され、身柄を預けられたナイチンゲールの手厚い看護により、命は取りとめたのだった。  この戦いでタイターは他者を殺める事こそしなかったが、それは単純に力が足りず他マスターに阻止されていただけであり、もはやその手は汚れているようなものである。  ※マスター・高松右京のモデルである小松左京は、実際に第一次聖板戦争企画のはじまった2011年7月に死去している 【第二次聖板戦争でのタイター】  英雄としての誇りを捨てて悪に加担し、それでも聖板を手に入れられなかったタイター。強豪が揃う第一次聖板戦争を何度繰り返しても、これ以上の勝利は望めない…。  闘志を喪失する彼の元に、タイムマシンの通信装置を介して謎のメッセージが送られてくる。『 以下の時空間座標を入力し、タイムマシンでワープせよ 』と。  半信半疑のまま半ばヤケクソでそれを行うと、到着した場所は科学設備の整った山の中の小さな基地。そこには新型のタイムマシンと小聖板、魔力補給装置が置いてあり、人体改造用の手術機具まで完備されていた。  程なくしてタイターは知る事になる。ここが続く第二次聖板戦争の舞台である、江板市付近の山中である事を…。早速肉体を改造してサイボーグとしての力を手に入れ、小聖板を起動。  今回はサーヴァントとしてではなく、自分自身がサーヴァントを使役するマスターとして新たに聖板戦争に挑む事となった。  しかし満を持し、必勝の気概をもって挑んだはずの第二次聖板戦争――――はまったく良いところがなく、連敗に次ぐ連敗。  敗因は複数挙げられるが、サーヴァントであるアダムスキーが非協力的で魔力供給のための魂狩りに支障をきたした事、  戦争序盤に遭遇した相手の電撃を受け、サイボーグの身体が機能不全を起こしてしまった事、  タイターの真骨頂である未来科学兵器群が、戦闘で幾つか損壊してしまった事、  他サーヴァントとの戦いに敗れて、タイムマシンや未来兵器のほとんどが奪われてしまった事、  切り札である機械魔獣がアクシデントで暴走し、タイターを庇ってアダムスキーが死亡てしまった事…などが上げられる。  サーヴァントも装備もすべてを失い、ボロボロのタイターの耳に死んだアダムスキーの今わの際の言葉が響く。  『戦火に苦しむ弱き者達を救ってくれ、我が友英雄ジョンよ。君ならできる…かつて世界を救った君ならば』 今まで自分がやってきた事はなんだったのか。友の言葉にこれまでの過ちを悔い、失意の中で江板の街をさまよう彼はあるサーヴァントと出会う。  古の剣聖として知られるその人物は、迷えるタイターに剣の修行を施した。  無心に木刀を振り続けるうちに、己の内面を見つめ直したタイターはついに―――眠っていたその正義の魂を目覚めさせる。  その後、邪悪な魔術師フォーゲンなどとの戦いを経て最終決戦に至り、多くの知己を得て彼は完全に英雄の心を蘇えらせたのである。  …本来ならば、この戦いの終幕と共に彼の物語は終わるはずだった。だがその眼前に、何者かが送ってきた新型タイムマシンが忽然と出現。  アダムスキーの残した使い魔たち――――スペースブラザーズもタイターについてゆくと宣言。運命は、彼にまだ退場を許さなかったのだった。 【第二次・第三次聖板戦争中間のタイター】  ついにタイターは故郷に帰還する事を諦め、新型タイムマシンを使って時空を越え、幾つもの平行世界の聖板戦争を渡り歩く。  目的はアダムスキーの遺言の通り、戦争の巻き添えで被害を受ける人々の救助。だがここで一つの問題が浮上する。  元々サーヴァントとして召喚されたタイターは、その現界維持にマスターからの魔力供給が必要となる。  しかし既に彼にマスターは存在しないし、魂狩りのような悪辣な手段を行う事ももはやできない。  そこでタイターは各平行世界で新しいマスター達を探して契約しつつ、救助と平行して様々な魔力供給の手段を模索。  地脈や自然物から魔力を摂取したり、宝石や魔法薬などのマジックアイテムを利用したり、  なんとか倒せた雑魚悪党サーヴァントの魂を小聖板に貯蓄して魔力に変換し、糊口を凌いでいたのである。  時には背に腹は代えられず、強い魔力を持った女性魔術師(マツコ似の56歳)と愛人契約を結び、  性交渉で魔力供給を行っていた事もあった。初めての供給の後、彼はハンカチを咥えて褥に涙を零したという…。  数々の世界で何度も聖板戦争を繰り返し、タイターもそれなりの経験を積んで戦いのコツ、人命救助のコツを身に着けていった。  またマスターやサーヴァント達の情報も多く入手…戦いの中で信頼できる善意の人物、逆に危険な人物なども解るようになる。  幾度の失敗もあったが、今度は仲間であるスペースブラザーズ達がいたので以前のように心をすり減らし、狂う事もなかった。   【第三次聖板戦争・開始時のタイター】  そんな聖板戦争を二十七回ほど繰り返した頃、再びタイムマシンの通信装置に謎のメッセージが送られてくる。  第二次の時と同じく、メッセージにあった時空間座標にワープするタイター一行。やってきた場所は人工島の街・天射市―――第三次聖板戦争の舞台。  一行の到着を待っていた謎の老人から魔力電池や新しい武器を手渡され、この思わぬ助けに気勢が上がる。  これで魔力供給手段の確保に余計な手間を取られる必要もなく、存分に活動する事ができるようになったのだ。  新たなステージに奮い立つタイターだったが、待ち受けていたのはこれまでを越える過酷な戦い。そして新しい仲間たちとの出会いだった…。     まず手初めに、飛行能力を持つタイムマシンに搭乗し、情報収集を兼ねて天射市上空をパトロール(もちろん機体は迷彩色で見つからないようにしている)。  マスター・サーヴァント同士の対決を発見した際は、周囲の一般人を避難誘導し、巻き添えを食らった負傷者を病院に運ぶ。  節度を守り、両者同意の上で尋常の勝負をする者達は熱く見守る。周囲の被害を気にせず暴れまわる者や、積極的に他者を害する輩は場合によっては戦いを挑む。  そして心正しき者を探し出し、善きマスター達の間で橋渡しとなり、彼らを一刻も早く団結させ共闘させるようにする…。  この度の聖板戦争における方針を以上のように定め、早速天射の街に繰り出すタイター。改造を進めた機械の体で戦闘力も上がり、これまでになく漲る自信…!  そうこうしていると天射市を彷徨っていた正体不明のはぐれサーヴァントを発見。この謎の男の平和を愛する献身的な行動に、アダムスキーの面影を見たタイターは―――  そのまま魔力切れで消滅してしまうのが忍び難く、契約をしてしまう。はぐれサーヴァントは自分の名前を『 八っつぁん 』と名乗るが記憶喪失に陥っており、名前以外の一切を思い出す事ができなかった。  こうしてタイターはサーヴァントを得、図らずもマスターとして聖板戦争に参加する事となる。この出会いが原因で、後に大きな騒動に巻き込まれる事になるとも知らず…。   【第三次聖板戦争・序盤のタイター】   あらかた天射市の情報収集も終わり、所々で遭遇した幾つかの戦いの立会人を務めるなどして、タイターは今回の方針に確たる手応えを感じてゆく。  スペースブラザーズ達や八っつぁんもよくタイターを補助してくれて、まずまずのスタートに満足。やがて、彼らに次なる出会いが訪れる。  それは、目取真重雄とそのサーヴァント・林黒児、小田吉法子とそのサーヴァント・藤原信長の4人。戦いの中で彼らと知り合ったタイターは、  そのキャラクターに何となく親近感を感じて、緊急連絡用通信機をあげたのだった。今はただ聖板を求める彼らだが、いつか共に弱き者を守るため戦ってくれるのではないか―――  そんな思いが頭を過ぎったのである。…ところが見込み違いだったのか、早朝いきなり彼らにタクシー代わりに街外れへ呼びつけられる始末。  憮然としながらも、しょうがなく彼らを乗せてタイムマシンで天射市の朝空を飛ぶのであった…。  初めての飛行体験に興奮し、煩く騒ぎ立てる目取真ら。さすがにムカついたタイターはよっぽど放り出してやろうかと何度も思っては、堪えた。  そして一行は、朝食の買出しのためジャンケンで負けた八っつぁんと目取真をコンビニへと行かせる…しかし、そんななんでもない日常の行為が、彼らに危機を招くのだった。    ―――飛行中のタイムマシンの警報ブザーがけたたましく鳴り響く。レーダーが指し示すのは、高速飛行物体接近の報せ。背後に目をやれば、砂埃を上げて渦を巻く小さな竜巻が追ってくる…!  天射を照らす朝焼けを見ながら、悠々と朝食を摂っていたタイターらは突然の事態にパニックを起こす。どう見ても尋常の自然現象ではない、これは敵サーヴァントによる魔術攻撃か!?  半分は正解だった。竜巻の正体はサーヴァントではなく、風属性魔術を得意とする人間の魔術師…中東からやってきた少年、『 竜巻小僧 』ホイスラートである。  ホイスラートは自ら作り出した竜巻をまとい、空中を飛行できる魔術師。さらに強力な吐息で攻撃するブレス魔術を使用し、口から圧縮空気弾を連続発射。  明らかな敵意をもって、こちらを撃墜しようと追撃してくる。タイターはタイムマシンに備えられた重力コントロール機能を使い、防御フィールドや重力場エネルギー砲で応戦するが…。  敵は見事な回避行動で攻撃を避け、執念深く追いかけてきては着実にこちらにダメージを与えてくるのだった。ついに追いつかれ、タイムマシンの上に降り立つホイスラート。  そして少年魔術師は言う。『 そこにいるサーヴァントを、こちらに引き渡せ 』…と。敵の目的は聖板ではなかった。その狙いは、なんと八っつぁん!  ホイスラートはさっきのコンビニで目撃した八っつぁんを捕獲し、殺害する為に追跡してきたのである。当然のごとく要求を拒否し、剣を振るうタイターを見事な体捌きで軽くあしらうホイスラート。  この恐るべき少年は、魔術のみならず拳法の技も超一流なのだ。このままでは八っつぁんが殺される…しかし敵の眼前に、不敵に立つ女性が一人。目取真のサーヴァント・林黒児である。 『 武術の腕前なら、あたしも結構な自信があるのよ 』 地上数百メートル上空を飛ぶタイムマシンの狭い機上で、二人の拳法の達人が対峙する。  刹那の睨み合いの後、林黒児による速射砲のような義和拳の連撃がホイスラートに降り注いだ。しかしホイスラートは奇妙な回転動作でこの攻撃を捌き、弾き返す…!  ただの人間がサーヴァントと互角に戦っている…これまでにそんなマスターを何人か目撃してきたタイターも、さすがに戦慄せざるを得ない状況だった。  激しい戦闘の余波でタイムマシンが故障するのを危惧したタイターは、なんとか人気の無い場所を見つけて着陸。一方で二人の戦闘はさらに激化、  強力な竜巻の魔術を使用し始めたホイスラートの苛烈な攻めに、林黒児は徐々に劣勢となる。このままでは不味いと仲間たちは一斉攻撃を仕掛けるが、相手はこれをものともしない。  これはもはや、逃げるしかない! …だが相手の飛行能力からして、また追いつかれてしまう事は必至。かくなる上は最後の手…とタイターは通信機を使って周辺のマスターに救援を要請。  運良くこれに応え、事前に仲良くなっていた数組のマスター&サーヴァントらが駆けつけてくれた。不利を悟ったホイスラートは逃亡し、何とか八っつぁんを守り抜く事ができたのだった…。  救援に来てくれた友人達に深く感謝、何かあったら今度は我々が助ける…と告げてひとまずは別れる。目取真たちにも感謝し別れようとするが、ここで彼らから思わぬ申し出を受ける。 『 自分たちはまだまだ未熟で仲間が欲しい。八っつぁんも狙われてるようだし、ここは手を組まないか 』…君達に危険が及ぶのは避けたい、と一端は断るが、目取真の真摯な頼みに頷くタイターであった。  かくのごとき次第で、スペースブラザーズ4人、八っつぁん、目取真重雄、小田吉法子、林黒児、藤原信長にリーダーのタイターを加えた、総勢10人の『 タイターチーム 』が結成される事となったのである。   【第三次聖板戦争・中盤のタイター】   戦闘に特化した能力を持つサーヴァントが少なく、マスターたちも未熟。結成したのはいいが、タイターチームは数こそいても戦闘力はお世辞にもあると言えない。  今まで通りにレスキュー活動を行いながら、新しい仲間のスカウトや目取真・法子の魔術修行で戦力を強化してゆこう、という事になった。  八っつぁんを狙う敵がまた現れるかも…という緊張感はどこかユルかった彼らの雰囲気を一変させ、戦士としての成長を促すのである。  聖板戦争も中盤になると戦況は徐々に激化しはじめ、より大きな戦いが天射市の方々で発生。それに伴って、犠牲者の数も増えることとなる。  タイターチームも東へ西へと奔走し、単なる人命救助のみならず、凶悪なマスターやサーヴァント達との熾烈な対決に臨むのであった。  魔獣・リュークロコッタの操るクロコッタの群れが住宅街で殺戮を開始、これを阻止し魔獣を掃討する為に出動。  ワビットのネバーランドに引きずり込まれた子供達を救出すべく、多くのマスターと共にランドへと潜入。  黒死病をバラ蒔くサーヴァントらを退治し、その元凶と思われた医師・生白尚士を倒そうと病院を急襲。 『 万霊の筆 』や『 暦(カレンダー)』といった組織のエージェントとの戦い。  錬金術師・ホホロウシュの発生させた魔力を奪う霧を除去する手段を求めて、天射中を駆け回る。  魔術テロリスト・エルネストのアジトに忍び込むも罠に嵌って全員大怪我、あやうくリタイヤしかける。  サイオウゴー&ブルマン君を狙う餓鬼霊使い・施恩院垣丸との因縁の戦いの始まり…。  ホイスラートとの再戦、しかし今度は撃退に成功する…などなど。  そうした数々の戦いを潜り抜け、時にチーム全滅の危機に陥りながら、タイター達は着実に力を増していった。  またそれらの戦いで知己を得る事ができた、たくさんのマスターたちとの出会いも、彼らにとって大きな助けとなってゆく。  だが無論のこと良い事ばかりではない。タイターの心を迷わせ、苦しめた物語もまた―――あった。  それに関しても語らねばならないだろう。 【タイターの罪・生白尚士事件】  ここに、生白尚士(うぶしろなおと)という人物がいる。この男は天射病院の医師でありながら、人を治し解体する事に快楽を見出すサイコパス(その詳しい設定は、たらこ男氏製作のデータを参照)  かつては監禁した人間を、死ぬまで治しては解体し、また治して解体し…を繰り返していた。狂人だが巧妙に本性を隠し、表面上は腕のいい外科医として周囲に評価されていたのである。  聖板戦争が開始されると、黒死病を振りまく彼のサーヴァントが患者を勝手に作り出してくれるので、喜び勇んで病院に運ばれた患者の治療に専念する。  こうして数多くの患者を治療した生白は、病院のヒーローとして讃えられた―――が、募る解体欲求の方を抑えきれず、患者の一部を解体、治療の連鎖地獄へと招く。  病院のヒーローの密かな凶状を見抜く者はおらず、救われた患者たちの影に隠れた少数の犠牲者を気にとめる者はいなかった…。  しかし、彼の悪行を看破する者達がいた。街に散らばる黒死病のサーヴァントと戦い、その被害地域の特徴からそのマスターが天射病院にいるのではないか…と推測した他のマスター達である。  タイターチームもそんな者達の一人であった。事態は急を擁する…と病院内に潜入し、小聖板の索敵機能と、開発した魔力探知機を併用して院内を捜索する。  ついに医師・生白尚士から強い魔力を感知、黒死病の事で彼を問い詰め、その会話の端々からほのかな狂気を感じ取ってこいつが犯人だ…と当たりをつけたタイターらは身柄を確保しようと包囲。  だが、病院の外から飛んできた生白尚士の真のサーヴァント・『 脚無しキッホル 』が窓を叩き割って出現。その巨躯を震わせて攻撃を仕掛けてくる。  その威容に恐れをなした一同、この強敵と戦うにはもっと戦力が必要…とタイターも判断し、戦略的撤退を決意。命からがら逃げ延びる(涙)  …その後、生白とキッホルは善のマスター達によって倒されたらしい。それで、この話は終わる…はずだった。  聖板戦争中盤も過ぎ、終盤にさしかかる頃。エルネストのトラップにかかって負った怪我も未来科学の治療でようやく完治、タイターチームは再び活動を開始する。  ある時、天射地下で巨大な魔力の反応をキャッチ。その正体を探ろうと、地下施設に潜って探索を試みる。アーケード地下街のある場所から秘密の通路を発見、  更に深くへと階層を降りてゆくと…そこで待っていたのは、思わぬ相手。幾つもの平行世界を巡ったタイターは、その怪物の名前を恐怖と共に記憶に刻み込んでいた。 『 妖術師 』アルシャンク…人の世の悲しみを喰らい世界を虚無へと導く、混世魔王とも称される闇のテロリスト。彼の手により、一体幾つの世界で破滅が引き起こされた事か…。  本来ならばまさに、この男こそタイターの敵。その存在を許さざる邪悪として、身命を投げ打っても倒さねばならない相手と言えるだろう――――そんな事が可能であればの話だが。  正義の志も霞む圧倒的恐怖に、タイターはアワワモードになってへたりこむ。何も知らない目取真などは、愚かにもお尻を叩いて挑発を始めた(アホ) 『 誰かと思えばタイターか。フ、会う度に道化ぶりが板についてきているようだな 』 愉快そうに笑うアルシャンク。まるで、無数の平行世界での出来事をすべて知っているかのような物言い。  その言葉に惑わされ、これまで何度正気を失いかけたか解らない…耳を貸さぬよう注意しながら、皆を逃がそうと考えを巡らすタイター。 『 ここ暫く地の底住まいとは言え、活躍は耳にしているよ。日々の人助け、まったく頭が下がる思いだ…。』聞くな、聞くな…耳に纏わりつくその声を振り払う。 『 お前に救われた者も多かろう。…ああ、そういえばお前に負けぬほど人を救った者がいた―――そうそう、生白尚士。医者だ。』  思わぬ名前が飛び出し、つい気を引かれてしまう。『 お前と気が合うのではないか、と思ってな。ひとつ仲立ちをしてやろうと色々調べたのだ。少々お節介が過ぎたか? 』  何を言っている。その男は黒死病を振りまくサーヴァントのマスターで、既に倒されたはずだ…と口にするタイターに、冷笑をもって返す妖術師。 『 そうか、それは本当にお節介だったようだ…実は生白という男、とんでもない狂人だと判明してね。危うく危険人物を紹介する所だったよ 』 そこで、アルシャンクは生白尚士の隠された性癖を明かす。患者や誘い込んだ人間を、治療と称して何度も治しては切り刻む…その人に非ざる残虐非道な本性を。  何が言いたい…こいつはいったい、何が…そこまで考えてふと、頭を過ぎる事それは…。 『 まったく、酷い男だよ生白は。なあタイター。あの男が切り刻んで殺した者の中には、お前が必死に助けて回った者もいたのだぞ? 』  タイターの心に衝撃が走る。そうだ、何故忘れていたのだろう…? 生白尚士の勤めていた天射病院は、市内でも有数の大病院だった。  ここならば安心と思い、タイターは戦争で被災し怪我をした人々を―――幾度も運びこんでいたではないか! 残忍な狂人の祭壇へ、人助けと思い生贄を送りつづけていたのか…!  フラッシュバックのように蘇る記憶。病院の屋上まで怪我人を運び、事情を説明して患者を受け取った医師は…確かに生白だった。 『 せっかくのお前の善意が、台無しにされてしまったな。だがタイター…助けた者がどうなったか、最後までしっかりと確認を取るべきではなかったのか?   後は人に任せておしまい…それで助けたつもりになっていたのか? 助けた者の責任というものが、あるのではないかな。どうだ、タイター。   お前は多くの者を助けてきたが、それはいつしかただの作業となっていたのではないか。一人一人の人生を、命の重みを、最近軽んじてきてやしないかね? 』  心を抉るアルシャンクの言葉を、それ以上聞くに耐えず…タイターは元来た道を、脱兎のごとく引き返す。慌てて追いかける仲間達。けれど今は一人になりたかった。  平行世界の聖板戦争を無限に繰り返し、無限に人を助け続ける。この命のある限り。それが死んだ友のアダムスキーの望み。そして英雄タイターのあり方だ。  …しかし、時空を旅するタイターだからこそ解る。目の前に存在する茫漠たる時間の海…その広大さを。無限は恐ろしい。それをはっきりと自覚すれば、ちっぽけな人の心など壊れてしまうだろう。  これから、無数の世界で無数の人々との出会いが待っている。彼ら一人一人の人生など考えていたら、やがて心は疲れ果ててしまう。  正義をなす為に、平和をなす為には、それを機械的に行っていかなければならない。個人を救うのではなく、多くの者を救うにはそうするしかない。  けれどもタイターはそれが怖かった。無限を前に、心が鉄のように冷えてゆくのが耐えられなかった。個人を救うことが、全体を救うのだと信じたかった。  だからタイターは何かに縋るように泣き、笑った。くだらない事でも一喜一憂し、人を愛し、また悪を憎んだ。体は機械でも、心は人であろうとし続けた。  ――――そんな狭間に揺れる心の葛藤を、妖術師は容易く見抜き、弄ぶ。結果タイターは、生白に贄を差し出したという罪悪感に苛まれるのである。  第三次聖板戦争が始まった時の燃えるような志は、今や折れる寸前であった。 【タイターの罪・四季条梓希事件】  ここに、四季条梓希という人物がいる。数奇な運命から英霊・葛の葉狐の魂を内に宿す事になった、心優しい少女である(その詳しい設定は、harudi氏製作のデータを参照)  彼女がタイターにいかなる関わりを持つのか―――それは第一次聖板戦争まで遡る。  タイターがサーヴァントとして初めて召喚された時、高度な解析機能を持つ未来科学のコンピューター、『 IBL 5100 』が宝具として使用可能となった事を知った。  この宝具は、彼が生前に使用していたどのコンピューターよりも優れた機能を誇り、これを操る事で膨大な情報を入手する事ができたのである。  そうして手に入れた情報の中に、未来世界で厳重に秘匿されていた超A級の機密情報が存在したのだ。その情報とは――――――彼の故郷である未来世界が荒廃した、真の理由。  これまで、未来世界の人類が滅亡手前まで追い込まれた原因は、アメリカとロシアによる核戦争である…とタイターは聞かされてきた。  しかしIBL5100に記録されていたデータによれば、ロシアがアメリカに核攻撃を行った理由…それはアメリカに出現したパラノーマルビーイング、すなわち超常的存在を消滅させる為のものだったというのだ。  この存在は当時の科学では解析不能な巨大な魔力・霊力・呪力を持ち、陰陽道か仙道と思われる東洋魔術を行使。そして遠距離から撮影した不鮮明な映像によれば、獣――狐のような耳と尻尾を持った女性である事が確認できたのである。  核戦争とはその実、強大な力を持つこの存在と人類の戦争であった。敗れれば人類は滅びる…いかなる手段を用いてかは知らないがその化け物は死し、数十億の犠牲を出して戦争は終結する。  一体何者が、どんな思惑でこの真実を衆目から隠したのかは知らない。しかしタイターは直感で、この化け物は聖板戦争に関わりがあるのではないかと察した。  第一次聖板戦争当時は堕ちた英雄だったとは言え、タイターは未来世界を救った者である事に変わりはない。この大災厄をもたらした謎の存在の正体を突き止め、後々の為にできれば排除したいと考えるようになるのだった。  その後、知り合ったサーヴァントの妲己(だっき)の姿が狐耳で尻尾持ち、しかも東洋魔術も使用できそうだと言う事で、件の化け物の正体ではと勘違い。一時はストーカーのようにつけ狙っていたと言う…。    時は流れ、第三次聖板戦争。妲己の姿も見かけず、タイターは世界を滅亡寸前に追いこんだ謎の化け物の事を、しばし忘れていた。が、ある日たまたま一人でパトロールをしていると、戦闘らしきものをしている可憐な少女に遭遇。  助けるべきか。しかしどうも様子が違う…しばらく観察の結果、タイターはそれが戦闘の訓練であると気づく。タイターチームの目取真や法子も、聖板戦争を戦い抜く為に日々特訓を重ねて魔術を磨いているのだ。  彼らと目の前の少女を重ね、密かに声援を送る。恐らく訓練の相手は式神――――日本の伝統魔術、陰陽道の使い魔だろう。あの年齢で少女は中々の使い手に見える。これは仲良くなっておいて損はなさそうだ…。  そう考えて声をかけようと近づく。ところがそんなタイターの目の前で、なんと少女は突然変身を遂げた。狐のような耳、尻尾――――この強烈な既視感、まさか、この少女はあの…?  …少女の名前は、四季条梓希。自らの内にある狐の英霊・葛の葉の魂の影響でサーヴァント化ができるようになった彼女は、自分の力を人助けに使おうと、こうしてサーヴァント化と陰陽術の特訓を行っていたのである。  特訓の相手は、梓希のサーヴァントである安倍晴明の式神・十二天将。最高の陰陽師である晴明の助けを得て、日々力をつけているまさにその最中…タイターは梓希に出会ったのだった。  とても、この大人しそうな少女が世界を滅ぼすような怪物には見えない。自分の思い過ごしだろう。何度もそう思ったが、心の奥底に湧き上がる悪い予感が拭えない。とりあえず、声をかけてみる事にした。  タイターのサイボーグの体に驚きつつも、梓希は丁寧に応対。久々に出会った良心的なマスターに、思わず心が和むタイター…。互いの自己紹介が済み、少しばかりの逡巡の後…彼は意を決したように話を切り出した。  自分は未来から来たという事。未来世界を荒廃させ人類を滅ぼしかけた怪物の姿が、梓希によく似ている事。もし何か心当たりがあれば、些細な事でいいから教えて欲しいという事…。  穏やかな雰囲気でどこか人をホッとさせる少女に、思わずありのまますべてを語ってしまったタイターは少しばかり後悔した。しかし梓希はこの突拍子もない話を笑わず、また怒りもせず真摯に耳を傾けてくれた。  が、残念ながらそんな話に彼女は心当たりはなく、困惑するのみ。例え梓希がその化け物だったとして、遥か未来に起こる出来事を現在の彼女が知ろうはずもない…。この話は忘れてくれと照れた顔で告げ、  お近づきにと連絡先を交換し、タイターはバツが悪そうにそそくさと退散する。…きっと何かの誤解だったのだ。先ほどの悪い予感と疑念を振り払い、再度パトロールに戻るタイターであった。    暫くしてふとタイターはある事に気づく。かつての第一次聖板戦争の頃と比べ、現在所持しているコンピューター宝具は格段にパワーアップしているのだ。もう一度、あの世界を滅ぼしかけた化け物の事を調べれば、  今度はより深い情報を得る事ができるのではないだろうか…? そう考えたタイターは矢も盾もたまらず、さっそくコンピューターを起動。関連の秘匿情報を発見し、さっそく解析を始める。  見事に引き出した新たなる情報…それを目の当たりにしたタイターは、思わず自分の目を覆った。そこには、信じたくはない映像が記録されていたのだ―――世界を滅ぼしたあの狐の姿をした存在の、鮮明な姿。  そして、その姿の前形態と思われる、梓希のサーヴァント化した姿が…。決め手は人であった頃の名前と記されていた、azuki shikijyouの綴り。もはや疑いは無い。  やはり、四季条梓希こそがタイターの故郷である未来を荒廃させた元凶だった。一体どのような経緯で少女が怪物になったのかは知らないが…今のうちに手を打たねば、この世界も同じ運命を辿ることになる。  彼女をこのままにしておけば、数十億の人類が死ぬのだ。深く悩み、苦しみ抜いた末にタイターはついに決意をする。未来を救う為に、四季条梓希をこの手で…殺す。  自分と同じく、誰かを助けようと必死に頑張る梓希の姿を思い出し、涙がこぼれる。ひょっとしたらこの世界では、梓希は化け物にならないのかもしれない。しかし例えそうでも、このまま放って置くのは危険過ぎる。  不確定でも、念の為でも、可能性の芽を摘む為にここは冷酷に命を奪う必要がある…。タイターはチームの仲間にも告げず、一人で始末をつけようと梓希の元へ向かう。以前会ったのと同じ場所で、彼女は再び特訓をしていた。  腰部のブースターをセットし、一瞬のダッシュで剣を突き立て、苦しまないよう一瞬で。休憩に入った梓希を物陰から襲おうとするタイター…だが突然、背後から何者かに押さえつけられる。しまった、式神か…!  振り返ったタイターが目にした者はなんと、目取真と法子。そしてチームの仲間達だった。彼らはタイターの様子がおかしい事に気づき、こっそり後をつけてきたのである。そこで少女を襲おうとしている場面に遭遇し、とっさに取り押さえたのであった。 虚ろな表情でタイターは理由を告げる。彼女は未来で、多くの人間の死の引き金となる。だから、しょうがないんだ、誰かがやらねばならないのだ、だから止めないでくれ…と。  そんなタイターに、目取真の鉄拳が炸裂! バカ、バカバカ、そんなの私が憧れたタイターさんじゃありません。どんな理由があっても、罪の無い女の子の命を奪うような事はあってはなりません―――。  じゃあどうすりゃいいんだよ! …とタイターも涙を流しながら殴り合いを始める。やがて疲れ果てた二人は地べたに座り込み、過ちを悟ったタイターは、仲間たちに詫びた。  目取真の言うとおりだ。何かもっと別の手段を探そう。彼女が怪物にならない道があると、信じよう…。そう口にしたタイターの前に、一人の玲瓏な青年が姿を現した。隠形の法で姿を隠し、様子を伺っていた大陰陽師・安倍晴明である。 『 やれやれ…無用な殺生をせずに済んで安心したよ。君達は悪人ではないようだが、さすがに主の命を狙われては容赦できないのでね。』 言葉の裏に剣呑な刃を隠しつつ、語りかけてくる晴明。もし目取真らが止めなかったら、  タイターは即座にこの陰陽師によって殺されていただろう…命を拾ったのは、梓希ではなくタイターの方だったのだ。晴明は一瞬見せた殺気を何事もなかったかのように引っ込め、涼しげな顔で続ける。 『 未来から来たといったね。そちらの事情は解っている。先々の吉凶を占うのもまた、陰陽師の務め。梓希がこれからどうなってゆくのか…それも大方の察しはついているつもりだ 』  そして晴明は語る。未来は未だ確定してはいないこと。一人で全てを抱えず、周囲の仲間を信じてゆけば、きっと梓希は正しき道を歩んでゆける事…。 『 それは、どうやら君にも言える事のようだねタイター君。一人で全てを抱えず、もっと仲間を信じてあげたらどうか。そしてできれば、あの娘…梓希の未来も信じてあげて欲しい。   あの娘は多くの者達と絆を広げ、ゆっくりとではあるが成長している。このままいけば最悪の未来は、避けられるだろう。』  まるで父親のような眼差しで、離れた場所の梓希を見つめる晴明。その言葉に憑き物が落ちたようなタイターは、二度と梓希に手を出さないと誓う。  そしてこの顛末をまったく知らずに特訓を続ける梓希に向け、心から謝罪をするのだった…。  タイターは今でも時折思い出す。少女を殺めようとした時の事を。誰かを助ける為に、別の誰かを犠牲にしようとした事を。もう英雄でもなければ、正義の味方でもない。  誇りも失い、打ちひしがれる彼を慰めてくれるのは…仲間達の励ます声だけだった。 【第三次聖板戦争・終盤のタイター】  二つの事件を経験し、罪の意識に苛まれるタイターを支えてくれるチームの仲間達。彼らがいなければ、とっくにその心は砕け散っていたかもしれない。友人らの励ましをうけ、やっとの思いで聖板戦争に立ち向かう事を新たに決意する。  第三次聖板戦争はいよいよ終盤にさしかかり、これまで様子見に徹していた強力なサーヴァントやマスターが行動を開始。街のそこかしこで大規模な災害や殺人事件が連続して発生し、日々の恐怖に慄く天射住民は街を脱出する者も後を絶たなかった。  誰しもが迫る終末を予感し、最後の戦いが近づいているのを肌に感じ取っていた…。  タイターらも法王庁の聖堂騎士団や魔術結社連盟のエージェントとの戦いで、何故彼らや竜巻小僧ホイスラートが八っつぁんを狙うのか――――その理由を知るようになる。    八っつぁんの真名は八戸太郎天空。二千年前に日本にイエス=キリストがやって来ていた…という内容の偽書に記されている、キリストの日本での呼び名が八戸太郎である。すなわち、キリストの紛い物…と言う事だ。  極東の地で行われた第一次聖板大戦において、聖者イエス=キリストがサーヴァントとして召喚された、という情報を耳にした世界最大宗教・キリスト教カソリックの法王シルウェステル3世は、サーヴァントであるキリストを小聖板で召喚し、  彼を受肉させる事で現代にキリストを復活させようと画策。霊的兵器となりうる聖遺物をその力で大量生産する事で、魔術世界での覇権を握ろうと企んだのである。  正体は魔術師である法王は、その特殊な肉体を使ってキリストを受肉させようと、自ら天射市に赴いて召喚儀式に臨んだ。しかし教会側と対立するフリーメーソンら魔術結社連盟の妨害に会い、不完全な形で儀式を終わらせてしまう。  …その結果、召喚されたのはキリストの紛い物である八戸太郎天空。例え紛い物だろうが人類史最高の聖者、その力を期待した法王はその身柄の確保を命じる。  しかし、キリストの力を得る事で教会側の力が増長する事を恐れた魔術結社連盟は、何としてでもサーヴァント・八戸太郎を抹殺しようと攻撃をしかけ、両勢力は激しい争奪戦を展開。一進一退の攻防を続けるが、ここで新たな勢力が乱入。  それはイスラム系宗教組織に雇われ、連盟と同じく教会の増長を阻もうと現れた、竜巻小僧・ホイスラートである。その襲撃でより一層の混乱が巻き起こり、その戦いの混乱に乗じて八戸太郎はなんとか逃亡するのである。  だが召喚儀式の失敗のせいか、八戸太郎天空は自分が何者だったのかを忘れてしまっていた。憶えているのは生前、周囲に自分が八っつぁんと呼ばれていた…という事だけ。  そして、彼はタイターと出会ったのである。  捕らえた敵組織の末端から以上の情報を聞き出し、魔術組織の勢力争いから八っつぁんを守ろうと誓い合うチームメンバー達。一方で、敵勢力側もまたやむを得ぬ事情により、相互に手を組まざるを得ない状況になっていた。  それは教会、イスラム、魔術結社連盟、さらに魔術協会も加えた面々に共通する敵の存在が判明したからである。その敵とは、『 大地の使徒 』。過度の自然崇拝で人類を星を汚す害悪と見なし、破壊工作に従事するエコ・テロリスト。  強い力を持つ精霊魔術師を数多く有し、人類側を脅かすガイアの信奉者たちである。『 大地の使徒 』は、聖板戦争に参戦するサーヴァント達を複数星の生贄に捧げる事で英霊の座を汚染し、その力を減退させる事を計画していた。  人類を守る霊長の使い・英霊の力を弱めれば、今後の人類と星の勢力との戦いに有利だと考えたのである。そして彼らはどこからか教会の『 神の子(キリスト)復活計画 』をも嗅ぎつけ、復活した聖者をも生贄にしようと策謀を巡らせていた。  …八戸太郎―――いやさキリストほどの存在が星の生贄に捧げられれば、キリスト教のみならず人類そのものの霊的闘争力が大きく削がれる事になる。もはや法王でさえ八戸太郎の受肉を諦め、『 大地の使徒 』に捕まる前に消滅させようと覚悟した。  追撃してくる各勢力を必死に。こうしたピンチを度々救ってくれたのは、聖板戦争で友好を結んだマスターやサーヴァント達であった…。    隠れ家を転々として襲い来る敵をやり過ごすタイター達。そうして幾つもの廃墟や裏路地を渡り歩くうちに―――ある浜辺の廃屋で、なんと因縁ある邪悪な相手・施恩院垣丸と遭遇してしまう。凶行を重ね過ぎた垣丸は数多のマスターの標的とされ、タイターらと同じく逃亡生活をしていた最中だったのだ。  さらに悪い事には、垣丸こそ『 大地の使徒 』の一員。こうして潜伏しながら全サーヴァントを生贄にすべく、巨人軍団を召喚する準備を進めていたのである…。『 貴様らなどに構っている余裕はない。見逃してやる。失せろ…。』墓場で啜り泣く亡霊のような声音で呟く垣丸。 できればこの場で垣丸を倒したいのは山々だが、八戸太郎を守るのに手一杯の今の状況ではまずい。ここは引いてこの男の居所を他マスターに連絡し、後を任せるとしよう。そう考えて立ち去るタイターの背に、声がかかる。『 待て。もしや、その男は…? 』 訝しげに呼び止める垣丸は、手にした写真と…八戸太郎を見比べた。『 この大地の使徒から渡された資料…間違いないようだな。そのサーヴァント…噂の神の子か―――クックッ、これは思わぬ僥倖。気が変わったぞ。逃がすわけにはいかん! 』  しまった。仔細はわからないが、この垣丸も八っつぁんを狙う連中の一人だったのか…! 後悔する暇も与えず、垣丸の操るグロテスクな悪霊―――餓鬼霊の群れが現れ、牙を剥いて殺到してくる…! タイターと仲間達は円陣を組んで八戸太郎を庇い、必死になって防衛戦を展開。  垣丸は手を緩めず、続いて周囲に餓鬼を数体召喚し攻め立てる。このままではジリ貧、やむなくタイターは通信機を使い、救援要請を発する。現在邪悪な魔術師と交戦中、近くにいる友人達よ至急助けを請う…! 祈るように救援を待つ彼の元に、程なくして現れる三つの影。  助けが到着した、これでなんとかなりそうだ―――だがあにはからんや、タイターの心を絶望が支配する…来たのは助けではなかった。タイターの通信電波を解析、傍受し、その居所を逆探知して自ら出陣してきた魔術組織の巨頭たち。  法王シルウェステル3世、魔術結社連盟大幹部ロックフォード、そして竜巻小僧ホイスラートの三者…! 彼らは狙いの八戸太郎を捕らえ或いは抹殺し、ついで人類の宿敵である『 大地の使徒 』施恩院垣丸を誅殺すべく、こうしてやって来たのである。 『 手こずらせてくれたわ…。そのサーヴァントは我ら教会のもの。こちらに渡してもらおうか 』 『 待ってください! キリスト教徒などには渡しません。今、ここで始末します 』 『 いや、待つのだ法王、小僧。神の子の身柄を抑える前に、ひとまず我ら共通の敵、この施恩院垣丸から葬ろうではないか 』   自分達とは桁違いの力を誇る顔ぶれを目の当たりにし、もはやこれまでか…と観念しかけるタイター。せめて、チームの仲間の命だけは救いたい。さすがの垣丸もこの三人が相手では直ぐに倒されるだろう…それまでに何とか、方法を考えなければ。  焦りつつ必死に思考を巡らすタイターを他所に、追い詰められたはずの垣丸は笑みを持って応える。一体、この余裕はどこからくる。垣丸のサーヴァント、魔獣リュークロコッタはすでに倒され既に身一つのはず。彼を守るものはもうないと言うのに…。 『 …魔術界の重鎮どもが、雁首揃えて何ともご苦労な事だ。仕方あるまい。予定より少々早いが…切り札を使わせてもらおう! 』 垣丸の合図と共に、側の海の波間から巨大な影が姿を現すそれは全長170mはあろうかという巨人!!  予想外の敵の出現に気をとられる法王らに、今度は垣丸の影から現れた美青年が襲いかかる。巨人の名は、へブロンのアナク人。サーヴァントを捕食する事で星への生贄とする、生きた祭壇として作り出された怪物。大地の使徒と垣丸の切り札である。  そして美青年の方は垣丸の真のサーヴァント、デーヴァダッタ。これまた聖人殺しの能力を持つ、強力なサーヴァントであった。巨人とデーヴァダッタ、この両翼を得て垣丸は俄然、勢いづく。しかし法王やフリーメーソン幹部、竜巻小僧とて人類屈指の強豪魔術師…そうそう遅れはとるものでない。  垣丸軍団を前に些かもたじろがず、これを迎え撃つのであった。眼前で始まった驚天動地の対決―――これをタイターは逃亡の好機と捉える。巨人の拳が振り上げられたのと同時に仲間と八戸太郎をタイムマシンに押し込み、フルスロットルでその場を一目散に脱出。  逃すまいと追いかけてこようとする敵達だったが、互いに相手に渡すものかと牽制を初め、その隙をついて見事に戦場から離脱する事に成功。相手側の対立を巧く利用し、なんとか危機を脱する事ができたのである…!  …大切な仲間を守ることができた。その喜びは大きく、幾つもの事件で傷ついたタイターの心を束の間癒す。僅かながら自信を取り戻し、再び精力的に活動を始めたタイターの前に、休む間もなく戦争終盤の難関が立ち塞がる。  紂王の住む魔城・幻影城朝歌が天射市上空に出現、中から現れた異形の軍勢が市民の拉致を開始…さらわれた者らを救出すべく、タイターチームも含めた心正しきマスター&サーヴァント達が魔城へと突入を敢行した。  最大の敵である魔王・紂王がジル元帥(第一次大戦から生き延びていた)に倒されるという幸運もあり、幻影城は完全に力を取り戻す事無くその姿を消す。第三次聖板戦争で最大規模の戦いとなったこの一戦を終え、タイターチームも他の友人達も快哉を上げたのだった。  幸運はさらに続く。タイターらをさんざんに追いかけまわした魔術組織の一勢力が、その追跡を放棄したのだ。  幻影城での攻防の直後、先の施恩院垣丸との戦いを制した三人の一人・ロックフォードがタイター達の前に現れる。彼は同盟を結んだはずの法王シルウェステルを抜け駆けし、腕のいい探偵を使って独自に居場所を突き止め、こうして一人やってきたのだ。  強力な魔術師とは言え、サーヴァントもいないロックフォードならばチーム総がかりで勝てるかもしれない―――そう考えて戦いの姿勢をとるチーム一同。ロックフォードは試すようにこの挑戦を受け、魔術攻撃を二・三手繰り返したところで戦いを止める。 『 …やめだ。今の手合わせでそのサーヴァントがキリストなどでない事は、よくわかった。どうやらシルウェステルめは、神の子の召喚に完全に失敗したようだ。』 八戸太郎から感じる乏しい魔力、その聖なる力を模した宝具もお話にならない脆弱さ。  ロックフォードは呆れたような表情を見せ、あれだけ血眼になって追っていた八戸太郎の抹殺を完全に放棄すると宣言。『 もはやその紛い物がどうなろうと知りはせん。この上は速やかに、残る大地の使徒どもを排除し、法王と雌雄を決するまでだ…。』  こちらに興味を失った大魔術師は、何事もなかったかのようにあっさりと立ち去った。緊張から解放されへたりこむ面々だったが、何にせよこれで少しは楽になると一安心…。事実、これを機に魔術組織の者達の追撃がパタリと止むのである…。  もはや残された敵はあと僅か。タイターらを襲った施恩院垣丸はあの後、法王シルウェステルらの攻撃で重傷を負い波間に消えたと聞く。他の凶悪なマスターやサーヴァントも、あらかた撃退されて果てたとの事だ。  そうなれば―――警戒すべきは聖板戦争主催者タナトス、妖術師アルシャンク、その本性を露にした錬金術師エルネスト…この三人ぐらいのものだろう。もう間もなく、長かったタイターの三次聖板戦争も、終わりを迎えるのだ…。    けれど、タイターの見立ては甘かった。  聖板戦争の舞台裏に潜む黒幕、デウス・エクス・マキナ。  アルシャンクが天射地下の大空洞で密かに成長させたオアンネス。  エルネストの切り札たる魔術礼装と、真の力を解放したリシュヤシュリンガ。  陰陽師・御門依子が変じた、『 聖板ヲ望ム全テノ敵 』とその混沌の眷属となったマルチ。  …そのいずれもただ一体で天射市の全てを壊滅可能な、途轍もない怪物中の怪物である。そんな怪物達が胎動を始め、今まさに現れようとしている事をタイターは知らずにいた。  知らなかったのはそれだけではない。法王らとの戦いで死んだと思われていた施恩院垣丸が生き延び、その憎しみの赴くまま天射を破壊しようと牙を研いでいた事も…。 【第三次聖板戦争・最終局面のタイター】  そして、最後の幕は切って落とされた。幾つもの厳しい戦いを乗り越え、無数の出会いと別れを繰り返し、挫折と再起を重ねて、ようやく辿り着いた場所…。  それが、仲間との別れが待ち受ける惨劇の地だったとは―――。    長きに渡る平行世界での戦いと第三次聖板戦争での戦いで、タイターが入手した複数の小聖板。その中にストックされた魂を移し変える手段を発見、そうして集めた魂で、ついに聖板を取得する事に成功した。  もはやタイターは聖板を得る為の行動はしていなかったが、思えばこれを得て故郷に帰ろうとした事が、すべての発端だったのだ。感慨深げに聖板を見るタイター。  悪のサーヴァントを無我夢中で倒してきた結果、いつの間にかここまで魂が溜まっていたようだ…。さて、どんな願いを叶えよう。タイターは考えを巡らす。  戦いの旅路を終わらせ、今こそ故郷に帰ろうか。いや、聖板戦争で傷ついた者達を癒すべきだ。…いやいや、本当はもう一度自分を庇って死んだ友に、アダムスキーに会って詫びたい。 しかしタイターの口から出たのは、自分でも予想していない一言だった。『 この聖板は、チームのみんなの協力を得て手に入れたもの。だから、君達の意見も聞きたい 』  思いついたどの願いを選んでも、きっと他の願いを選ばなかった事を後悔する。…仲間への情を盾に、タイターは選択の重さから逃げた。自分の願いを…捨てた。 法子が言う。『 わたし、信長さんに…織田信長に会いたいの! 』 藤原信長が言う。『 か、関白じゃ!! まろを、まろを関白にしてたも!! 』 林黒児が言う。『 あたし…あたし体が欲しい。受肉して、もう一度新しい人生を…! 』  八戸太郎が首を振る。『 すっだら板コでかなえた願ェに意味はねス。おらは遠慮すっぺ 』 八戸太郎を除く三人が、自分の願いを口にして言い争いを始めだす。  タイターと行動を共にする内に義心に目覚め、自己の願いよりも他者の為に行動するようになったチームのメンバーたち。しかし元々は、聖板を得るために戦っていた者達だ。  今ここに願望器である聖板を突きつけられ、再び互いの欲望を思い出して揉める…ここまで共に戦ってきた仲間のこんな姿を、タイターは見たくなかった。  けれど、こうなる事が解っていたのに、卑怯にも自分は彼らに願いを委ねてしまった…。チームの不和を招いて、何がリーダーか。最低の男だ。自己嫌悪で胸が苦しくなる…。 『 しばし、お待ちくださいッ!! 皆様!! 』 甲高い声が鳴り響いた。これまで沈黙を通し、成り行きを見守っていた目取真重雄が口を開いたのである。争う三人は驚いたように彼の方を見つめ、しばしの間の後口々に懇願しはじめる。 『 ね、重雄!…あたしの願いをかなえてくれるよう、あなたからも頼んで。もし受肉したら…重雄が欲しがってたあたしのアレ、あげてもいいわ 』 『 あっ、黒児ってばずるい! そんな手まで使うー!? 目取真くん、あたしに味方してくれたら、処じ…は無理だけどオデコにキスくらいありかもよ!! 』 『 なんと破廉恥な娘どもか! うぬぬ、目取真よまろに加勢いたせ! そ、そちに少納言…いや大納言の位を授けようぞ!!! 』  恥も外聞もなく目取真にまとわりつく者達をオデコからの怪光線で薙ぎ払い、落ち着くようにと促す。普段の奇矯さもどこへやら、彼は真摯な表情で頭を下げた。 『 法子さん、マロさんッ! ここはどうか、引いてくださいませッ。師匠に…林黒児さんに願いをかなえさせてやってください! 』 『 このドスケベ!!!!!!! 』間髪入れず法子とマロ(藤原信長)の拳を受け、吹き飛ぶ目取真。どう考えても受肉した林黒児といやらしい事を期待しての言に決まっている。ニヤリと微笑む黒児―――予想通り。まあご褒美にセミヌードぐらい見せてやろうかしら。  …だが、目取真の心は違った。この時ばかりは大事な仲間たちの争いを止めたい、その一心で口に出た言葉だった。 『 ち、違いますッ。信じてください。決して邪念はございません。…法子さん、あなたの願いは聖板ではなく私が叶えます。』 予想外の言葉に目を丸くし、言葉を失う法子。打ち所が悪かったのかもしれない…。 『 時間はかかるかもしれません。しかし魔術組織ができた事なら、我々魔術師にだって可能なはずです。いつか必ず魔術の秘奥を極め、小聖板を作り出して、織田信長を召喚します! 二人で協力すれば、きっと叶います。』 そんな事、簡単にできるわけないじゃない。できたとしても、どれだけかかるの。法子はそう言おうとしたが何故か言葉が出なかった。目取真の真っ直ぐな眼差しに、欲望の熱に浮かされた心がすっ、と冷えてゆくのが感じられた。 『 …太政大臣、藤原信長さん。あなたは位人臣を極めながら、それでも関白になりたいのですか。ただ従兄弟への競争心に囚われて、権力を欲するだけの人生。そんなものから解放される時ではないのですか? 』  この言葉に藤原信長は激昂した。おふざけキャラも雅も忘れて怒り狂い、散々に目取真を打ち据える。何も知らぬ小僧が…傍目にはそちの言う通りであろう。しかし、それがまろの人生の全てだったのじゃ。それを捨てては何も無いのじゃ。まろという人間が、立ち行かぬのじゃ。 『 そんな悲しいこと、言わないでください。私たちと出会って、ここまで一緒に来たじゃないですか。雅な宮中の暮らしだけが、あなたのすべてじゃないはずです。』  言葉に詰まる信長。確かにそうだ。ここで皆と一緒にいる間、権力への妄執を忘れた事が幾度もあった。生まれてから死ぬまで宮中で生き、それ以外の価値観を知らなかった自分に、この世界の友人たちは多くの事を教えてくれた。  …とは言え、やはり生前の願いを潔く諦めきれもしなかった。藤原信長はどうしてよいかわからず、力が抜けたようにへたりこむ。まろ、こんなキャラじゃないのに…。 『 林黒児師匠。あなたは肉体を経て生まれ直し、生前の人生にとらわれず新たな一歩を踏み出そうとしている。私はあなたの未来を祝福したい。タイターさん、いかがですか。 』  さすがあたしのマスターね。応援感謝するわ…林黒児は小さくそう呟いた。自分の願いが叶いそうだという勝利の喜びより、こみあげてきた別の感情をどうしていいか解らず顔を背ける。目取真の言葉が嬉しかった。この変態オデコには何の恋愛感情もないけれど、  自分を理解してくれる得難き存在だったのだと、はっきりわかった。肉体を得たら、法子と、目取真と…ずっと友人でいたい。戦争が終わった後もこうしてずっと一緒にいたい。アイドルの夢を追いかけて、法子の願いを叶えるのに自分も協力して、  そして三人は結婚してそれぞれ家庭を持ち、それでも仲の良さは変わらず…共にゆっくりと老いてゆく。タイターも時空の彼方から遊びに来てくれるかもしれない。そんな幸せな未来を期待して、林黒児は涙を流した。    ――――以上のやりとりを、呆気にとられたように見ていたタイター。目取真が、ここまで積極的に立ち回るとは予想外だった。  彼の言っている事は無茶苦茶だ。結局は一人の願いを選ぶ為に、勝手に優劣をつけて他の者の願いを却下した。法子と藤原信長は傷つき、失望し、彼を恨まないのか。だが不思議な事に二人は主張もせず、押し黙ったままだ。  …これは目取真の言葉が、二人の気持ちを的確に捉えて説得に成功したと言う事か。…いや、違うな。言葉ではなく彼の気持ちだ。目取真からは、何とか仲間どうしの争いを止めたいという、強い気持ちが感じられた。それが二人の心を揺り動かしたのだろう。  タイターはそんな目取真の真っ直ぐさがまぶしかった。選択を他人に押しつけて混乱を引き起こした自分と、何という違いなのかとさえ思った。 『 目取真。もし俺がいなくなったら、次のリーダーは君にこそ相応しいよ。統率力なんてなくても、強さなんてなくても、きっと君のその気持ちがみんなを引っ張ってゆけるだろう 』  そうしてタイターは、聖板を林黒児に渡した。皆の間で喝采が起きる。法子も、聖板を否定していた八戸太郎も。ひとり不貞腐れていた藤原信長も、ついに手を叩く。まろは諦めてはおらぬぞよ…タイターと世界を巡り、また聖板を手に入れるのじゃ、と告げて。  どうなる事かと成り行きを見守っていたスペースブラザーズ達も、安堵して喜びを露にする。堪えきれずに嬉し泣きをする林黒児に、まだ受肉するのは戦争が終わってから、気が早いとたしなめつつタイターも貰い泣きをするのだった。  …それは、実に珍妙な集団だった。未来と過去と、現代と、宇宙…異なる時間の異なる場所に生まれた者たちが今、奇縁によって集い、共に肩を並べて心を交わす。これこそが、聖板戦争―――。 【第三次聖板戦争・最後の戦い】   聖板の取得を祝い、楽しく宴に興じた翌日。タイター達はまず錬金術師・エルネストを討つべく相談を重ねる。かの男は膨大な量の魔力を収集し、何やら途方もない凶事を引き起こそうとしているらしい。既にそのテロリストの本性は暴かれており、  彼がこれまでに数々の大量虐殺に関わっていた事も判明している。彼と因縁のある焔条陽介・リィサの両名から話を聞いたタイターチームは、エルネストに挑もうとする二人を援護すべく他のマスターにも声をかけてみる。    彼と交戦した者の話ではそのサーヴァントはさほどの強さではなく、エルネストの魔術トラップにさえ注意すれば決して倒せない相手では無いという事。後にそのサーヴァント・リシュヤシュリンガは真の力を見せていなかったと判明するのだが…。  …大丈夫、皆で力を合わせれば必ず勝てる。根拠はなくとも、不思議とそう信じる事ができた。この天射の街を守って、皆で生き残る。藤原信長や八戸太郎が現界し続けられるよう、また彼らと平行世界を旅して魔力を集めるのもいい。  ゴールはもうすぐだ――――。 『 楽しそうだな、タイター。色々と吹っ切った、よい顔だ…。』この、亡者の呻き声のような耳障りな声。こいつ…生きていたのか。行く手の道端に疲れたように腰掛け、横目でこちらを見る男は、餓鬼霊使い・施恩院垣丸だ。 『 …お前も、色々と見てきたはずだ。この戦いの負の部分をな。ならば何故、そのような顔ができる。恨まず、狂わず、何故このような地獄にいられるというのだ…。』 教えてくれ。まるで捨て犬のような弱々しさで、邪悪な男が呟いた。  違う、違うんだ垣丸。俺も狂ったんだ。そして恨んだんだ。何度も何度も。でも、そんな時に出会った人達がいた。声をかけてくれた人達がいたんだ。彼らがいたから救われたんだ。  アダムスキーが、上泉伊勢守が、AKが、ナイチンゲールが、ローランが、安倍晴明が、八戸太郎が、目取真重雄が、小田吉法子が…いやいや、他にもまだまだ。彼らとの出会いがなければ、俺はとっくに…。 『 施恩院垣丸。お前が一体、どんな事情で聖板戦争を憎むのかは知らない。でも俺は仲間によって救いを得た。お前もきっと救いはある。だから俺の手を握ってくれ。罪を償う道を、共に探そう。お前がこの戦いの最後の仲間だ。』  危険だ、行ってはいけないタイター。この男はもう駄目だ。闇に堕ち、彼岸の彼方へ行ってしまった人間だ…そういってタイターを止める仲間達を振り切り、垣丸に歩み寄る。殺されるかもしれない。だが、この憎悪が凝り固まったような男に、  なんとしてでも光を伝えたい。かつて、アダムスキーが自分に教えてくれたようにだ。 『 ありがとう、タイター…。』 しわがれた声を振り絞る垣丸。その鬼相が一瞬穏やかなものへと変わった。きっと、これがこの男の本当の顔…。わかってくれたのか。タイターも優しげな笑みを浮かべてこれに応える。  できる。自分は、いや人間は誰かの人生をこうして変える事ができるんだ。アルシャンクがその言葉で人を狂わせるなら、これからの自分は人を救ってやれる。あの妖術師の呪縛からも、ようやく抜け出せそうな気さえした…。 『 あ、あひゅる 』―――――? ドサリ、という音。思わず振り返ったタイターが見たのは、胸に開いた穴から鮮血を迸らせて倒れ伏す…藤原信長の姿。その背後に現れたのは、橙色の僧服をまとった美青年―――垣丸のサーヴァント、デーヴァダッタ。 『 タイター。あなたは優しくて強い人。まるで、あの方のよう…。』 藤原信長を貫いた毒爪を赤く染め、怖気の奮う表情でうっとりと笑い、そう告げるデーヴァダッタ。『 我ら心弱く愚かな者たちは…あなたのような者を見ると、甘え寄りかからずにはいられない。』  咄嗟に繰り出した林黒児の拳を受け、事も無げに握りつぶす。激痛に絶叫する黒児を地に何度も叩きつけると、続けざまに蹴りを放ち…そばの八戸太郎を高々と天に舞わす。さらに魔術で織田信長と漫画キャラに変身した法子と目取真に、煮えたぎる高熱の血を吐きかけて吹き飛ばした。 『 幼き乳飲み児が、母の乳首を噛み切るごとしですよ、タイター。あなたならば、きっと我々の罪を笑って許してくれる。こんな事をしても、こんな事をしてもッ! 何故なら、あなたは優しく! 心強きものだから! 』 『 やめろーっ!!やめてくれ!! 垣丸、止めてくれ。あのサーヴァントを止めてくれ!!』 目前で繰り広げられる惨状に耐えかね、必死に叫ぶタイター。だが、垣丸は無表情で微動だにしない。嘘だったのか。すべては卑怯な騙し討ちの為の、偽りだったのか…。  タイムマシンから重力波を発射、応戦するスペースブラザーズたちを神足通の神通力で翻弄し、巨岩を召喚して投げつけるデーヴァダッタ。下敷きになり、タイムマシンは火花を上げる…。潰された火星人ファーコンや土星人ラミューが悲痛な叫び声を上げる。 『 タイター…お前は大切な者を失って、それでも俺に笑って手を差し伸べてくれるか…? 俺に希望をくれタイター。この地獄に光をくれ。今一度人を、この世界を、この俺自身を信じる心をくれ。頼む…頼むゥゥ!!!! 』  血の涙を流して掴みかかる垣丸。お前がそれでも他者を愛せるなら、俺も愛せる。大切な人を失っても、それでも笑って生きていける。俺を友と呼んでくれタイター。共に堕ちてくれタイター。そして一緒に這い上がろう…この地獄を。 なおも暴虐を振るうデーヴァダッタも、同じく血涙を溢れさせて言う。『 ああタイター。そんな顔をしないで。笑って! 優しいあなた。慈悲深きあなた。あなたは地獄に射した一筋の光明! 血に塗れた僕たちを、どうか抱きしめて。 』  タイターの口から、今まで発した事のないような叫び声が迸る。抜いた刀を滅茶苦茶に振り回して垣丸を振り払うと、加速装置を機動させてデーヴァダッタに体当たりする。組み伏せたデーヴァダッタに馬乗りになり、何度も殴りつける。  悪鬼のような表情で怒りのままに拳を振るうタイターは、何故、どうして、こんな事を…! としか口にできなかった。その姿はまるで、地獄の亡者であるデーヴァダッタや垣丸が乗り移ったかのようだ…。 殴られても微笑み続けるデーヴァダッタが、陶然として言い放つ。『 死と、苦痛と、恐怖に満ちた地獄のような世界…そこにあってもなお、優しく笑える人間。そんな人が見たい。そんな人ならばきっと僕たちを救ってくれる。あなたがそういう人であって欲しい…これは確認なんだ。ねえ、タイター…。 』 垣丸は倒れた目取真の頭を掴んで持ち上げ、いたぶるように徐々に力を込める。『 人を恨み、世を呪う…誰が好んでそうするものか。だが捨てられぬ。死んでいった者達が、復讐を囁くのだ。それを止めたいのならばタイター。お前が先に復讐を捨て、手ずから人の可能性を示せ 』 ひどく疲れたように垣丸が言う。この男の言葉に偽りは無く、真実救いを期待しているのだ。憎み続けて永らえる事に、この怨霊はもう疲れ果てているのだ。恨みを晴らした所で失ったものは帰らない。その虚しさと哀しさを、今は憎悪で塗り潰しているだけなのだ。 『 俺は傲慢だった。俺が知るよりもっと深い闇がこの世界にあること…忘れていた。いや、目を逸らしていただけなのかもしれない。それなのに、俺は誰かを救えるなんて…。』 タイターはそう答えると、虚ろな表情で垣丸に向き直る。 『 生白尚士に殺された人達は、苦しかっただろうなぁ…。遺族だって、悲しかっただろうさ。でも、もう帰ってこないんだ。たとえ過去に戻って助けても、この世界線での彼らの無念は、消えないんだ…。』アルシャンクの言う通りだ。人一人の命と人生の、なんと重い事…。 『 期待させて悪かったな垣丸、デーヴァダッタ。俺は無力で、ちっぽけだ。優しくもない。誰かを救えるだなんて大それた事、もう二度と思わない。思わないが…目の前の大事な仲間を、みすみす見殺しにはしないぞ。』 かつて上泉伊勢守より授けられた、新陰流剣術の構えをとる。  我が身を捨てても、仲間を助ける―――必ず! 闘志を漲らせたタイターを、無感情に眺めながら…垣丸は掴んだ目取真を放り出す。『 己の分を弁えるのに、随分とかかったな。だが、それでいい…。お前の戦いはここで終わりだ。』  そこのサーヴァント、八戸太郎がただのデクの棒だとも解っている。もはや大地の使徒らに対する義理もない…お前と戦う理由もなかろう。さらばだ―――と、興味を失くしたように素っ気無く言い放つ垣丸。  突如起こった地響き。地中から巨大な腕が生え、土を掻き分けて巨人…『 ヘブロンのアナク人』が数体出現する。垣丸は抑揚の無いかすれた声で、気だるげに囁いた。『 俺はこれから街を壊し、人を殺す。そしてこの俺も誰かに殺されるだろう。…それでこの悪夢も、終幕だ 』  デーヴァダッタも巨人の肩に飛び乗り、垣丸の傍らに寄り添う。『 残念だよタイター…。でもね…あなたが初めに垣丸に声をかけてくれた時…本当に嬉しかったよ。あの一瞬だけ、確かに僕らは――――。』 悲しげに微笑むデーヴァダッタの言葉を垣丸は遮り、そのまま巨人を引き連れ去ろうとする。 『 待て。』 呼び止めるタイター。ここでこの男を行かせては、自分の中の大切な物が失われる。『 人を殺すと聞いて、見過ごす訳にはいかない。』 どう足掻いても勝てそうにない巨人群に、敢然と戦意を叩きつける。その姿を見た垣丸は嘲笑いもせず、かぶりを振って答える。 『 …分を弁えたのではなかったのか。どこかの誰かの為に戦い続けるなど、もう止めろ。生き延びた仲間と、どこかで平穏に暮らせ。それでも戦うというのか。死した者への想いに取り憑かれ、呪われた戦いを永劫に続けるか。それではまるで―――俺ではないか。』  お前と一緒にするな。アダムスキーの平和への願いは、呪いなんかじゃない。俺は、垣丸とは違う…。『 ならば、死をもってその呪いから解き放ってやろう。お前も俺も、もはやそうする事でしか、この悪夢から逃れる術はないのだ。』 『 勝手な、事を…言うなぁぁーーーーーーーーーっ!!!! 』 絶叫し、脚部スプリングで跳躍して垣丸に一太刀入れようと飛びかかるタイター。が…。    無情にも振るわれた巨人の拳が、タイターの機械の体を粉々に打ち砕いた。 【第三次聖板戦争・結末】   …暗闇の中から、声が聞こえる。 『 タイター君。未来の運命は、君にかかっている。危険な任務だが頼むよ…必ず世界を救ってくれ。』 『 おかえり、タイター…! 皆、君を待っていた。待っていたんだ…!』 『 何を言ってるの、タイター。私は私、ここはあなたの世界よ。どうして、信じてくれないの…。』 『 これがあの、英雄ジョン=タイターの末路か。かつてのヒーローがこのザマとは…やれやれ、なんともやりきれないな。』 『 私の名は…高松、右京。初めまして未来の英雄よ。聞かせてくれ、君の物語を…。』 『 覚悟!! 受けてみよ、我が懲悪の一閃――――砕けぬ意思の剣(デュランダル)ッ』 『 そんな事は関係ありません。あなたは私にとってただの患者です。さ、じっとしててくださいね。 』 『 戦火に苦しむ弱き者達を救ってくれ、我が友ジョンよ 』 『 タイターよ。無心だ。無心にて、剣を振るのだ。』 『 タイター…私たち、スペースピープルズは…。いえスペースブラザーズは、あなたについていきます。』 『 やった、勝ったぞ…! 俺達は、この街を…江板を救ったんだ!! お前もよくやったよ、タイター!!』 『 あらン…アナタ、初めてだったのねン。どーお? たっぷり魔力供給した感想はぁン…ブフフフ。』 『 おらか? おらは、八っつぁんだ。よろすくなぁ。大根食うか? 』 『 タイターさんッ!! あなたの行動に、感服いたしましたッ!! どうか、私たちを仲間にいれてくださいッ!! 』 『 すごいね…タイターは。わたしなんかさ、ずっと自分の願いばっかりで。誰かの為になんて事、考えたこと無かったなぁ…。』 『 ええ、もう心配はいりませんよ。怪我人はこの私が責任をもって治します。腕には自信がありますから、どんどんこの病院に患者を運んできてくださいね。』 『 見つけたぞタイター! そのサーヴァントは我らのもの、早く渡せっ!! 』 『 一人一人の人生を、命の重みを、最近軽んじてきてやしないかね? 』 『 えっ…? わ、私が未来で人類を滅ぼす化け物と似てるって…そ、そんなこと言われ、ても…。』 『 チェイン・オブ・フォーチュン…死の運命をも覆す力さ。こいつは俺の…いや、ひょっとしてこの世界の切り札になるかもしれないな。』 『 ありがとう、ありがとうタイター。あたしこの聖板、みんなの分まで大事に使うわ…!』 『 あ、あひゅる 』 『 タイター。あなたは優しくて、強い人。』 『 お前の戦いはここで終わりだ。』 これまで出会った数多の者たちの姿が、走馬灯のように流れてゆく…自分は、死んだのか。  閉ざされた闇の向こうに、微かな光が見えた。その方向に向けて、ゆっくりと歩き出す。  やがて光は徐々に大きくなり――――。  タイターは目覚めた。 『 …ここはどこだ。ああ、そうか。俺は垣丸を倒そうとして、返り討ちに…。そうだ、みんなはどうした!? 』 ハッとして飛び起きるタイター。辺りを見回せば、放心状態で力なくうなだれている法子と、気絶しているらしい目取真しかいない。  藤原信長は…死して消滅したのだろう。林黒児と八戸太郎はどうなった。あの後、やられてしまったのか…。  タイターの体は殆どバラバラに砕けてはいたが、かろうじて命は繋いでいた。ひしゃげて煙を上げるタイムマシンに必死の思いで辿り着くと、  乗っていたはずのスペースピープルズの安否を確認する。…予想した通り、ひどい有様だった。火星人ファーコンは無残に潰れ、土星人ラミューは半身を失っている。  金星人オーソンも美しい金髪を血で濡らし、手足があらぬ方向へ曲がっている。グレイもピクリとも動かない。…悲嘆にくれ、天を仰ぐタイター。  …やがて、法子がゆっくりと語りだす。タイターにとどめを刺そうとしたデーヴァダッタを、目取真が止めようとした事。その目取真を殺そうとしたデーヴァダッタを、  林黒児が防ごうとしたが、結局倒されてしまった事。もう駄目だ…と思ったが、生きていた八戸太郎がデーヴァダッタに組みつき、光を発して共に消滅した事。  それを見た施恩院垣丸が戦いを止め、去っていった事。林黒児もやがて力尽き、別れを告げて消えた事…。  語りながら嗚咽が止まらず、涙で顔をぐしゃぐしゃにする法子。昨晩、みんなであんなに楽しく騒いだばかりだったのに。  林黒児は聖板を手にして、受肉を間近に控えていたというのに。さっきまでいた大切な仲間達が、今ではもういない…。  気絶から目を覚ました目取真も、この惨状を知って大いに嘆いた。自分の無力さを呪い、深く慟哭した。  そんな若者二人の姿を、タイターは見ていられなかった。…俺のせいだ。俺のつまらぬ正義感のせいで仲間を死地に追いやってしまった。  あの時、迂闊に垣丸に語りかけるなどしなければ…あの男を刺激する事無く、戦いを回避できたのかもしれない。  あるいは、去ってゆく垣丸を見逃せば良かったのだ。相手の言葉に冷静さを失い、勝てぬ戦いを挑んでしまった。結果はご覧の通りだ…。 『 …それは違いますよタイターさん。私があなたでも同じ事をしていました。憎むべきは、手前勝手な狂人の理屈であなたを、みんなを傷つけたあの垣丸です…。   例えどんな理由があろうと、どんなに苦しんでいようと、他人を傷つけていい道理がありますか。あいつは許されざる邪悪です。』  真っ直ぐすぎる目取真の言葉を聞いていられずに、俯くタイター。恨み言をいってくれた方が、まだマシだ…。 『 大事な仲間は失いました。悲しいです。でも私は、後悔していません…あなたを助けようとした事。林黒児師匠だって、きっと…後悔はしていないはずです!   それに、顔も知らぬ誰かを守りたいって、大事にしたいって気持ち…それは、希望じゃないですか。とっても難しい事だけど、この世界がいつか平和になるかもって、希望じゃないですか。   分を弁えるってなんですか。その人間にとっての分なんて、他人が決める事じゃないでしょう!! 』  まただ…。この若者は、いつも気持ちが先走って、熱くなりすぎる。それじゃダメだ。俺みたいに、いつか大きな失敗をする…。 『 …今の戦いは決して無駄じゃありません。犠牲は無駄なんかじゃない。あなたの正義の心が発端となって、仲間が動いた。そしてあのサーヴァント…デーヴァダッタを倒せたんです。   護衛を失った垣丸は、かつて程の強さはありません。私達にはできなかったけど、きっと他の誰かがあいつを倒してくれる。みんな強い人ばかり…彼らがまだ、生き残って戦っているはずです。   その援護ができたんですよ…。』  そう、信じたいだけだろう。本当にそう確信しているなら、そんなに必死に言うものか。君も、そうやって現実の悲しさから目を背けていては、俺のように弱くなってしまうよ。  俺がヘマをやって、仲間を失った。それだけの話さ。だのに――――――どうして君の目は。そんなに俺ばかりを真っ直ぐ見つめているのか。俺なんかどうでもいいだろ。  そんな事より、死んでいった哀れな者たちを思えよ。彼らの痛みを、苦しみを思えよ…。 『 私の言葉を聞いてくださいタイターさん…。あなたは間違っていない。みんなの死は、無駄じゃない…。だからそんな目をしないで。帰ってきてください…。英雄、ジョン=タイター!』  みっともなく鼻水と涙に塗れた顔で、タイターを抱きしめる目取真。色気のない事だ。できれば法子のほうにやってもらいたいな。 『 わだじが…悪いんでずッ…。ずっど聖板戦争を、みんなど続げだいなんで思っだがら…バチが、あだっだんだ…。ダイダーざんが悪いなんで、ぞんな訳は―――。』 目取真の眼差しは、目の前の一つの世界しか見ていない。その真っ直ぐな目は純粋かもしれないが、未熟な若者ならではの無知で浅はかな目だ。…でも。  その目は幾つもの無限の世界を収束させ、広大な時空の広がりを…そこで起こった数々の悲しみを一時忘れさせてくれた。もしかして、かつての自分もこんな目をしていたのか…。  未来世界で、初めに言われたっけな。『 ジョン=タイター。時間移動実験に参加した者達は、皆一様に精神を病んでいる。今ならまだ、君は拒否する事ができるよ 』  あれは…メンタルトレーナーの先生だったな。『 …悠久の時の流れ、平行世界の無限の可能性。そんなものは人の手に余るのだ。脳の許容量を越えている。自覚などしたら狂って然るべきだ。』  その通りだった。先生の言う通りだったよ。『 だからタイター。時には目の前だけを見る訓練をしなさい。今、目の前に映るものがすべてだと思うようにするのだ。  …それは時に狭量と映るだろうが、広過ぎる世界に放り出された君たちを守る、大事な心の壁だ。ああ、いい目をしているね。そうだ。その目を忘れるなよ。』   『 ありがとう。』 …嬉しさも、増してや謝意なんてものも枯れ果ててしまったはずなのに。言葉がタイターの口をついて出る。  今だけは、目取真と自分だけの小さな世界に在ろう。彼の信じる通りの、英雄ジョン=タイターでいよう。ああ、アダムスキー。君もいてくれるのか。  法子も来てくれるのか。じゃあ、四人の世界…おっと、ごめんごめん。そうだった。君らもここにはいたんだったな…。 【そして、第四次聖板戦争へ】  その後、小田吉法子はタイターのタイムマシンを起動して過去に戻り、この聖板戦争を初めからやり直したいと言い出した。目取真もこれに賛同する。  タイムマシンが壊れている事、魔力の集積で天射市周辺の時空が不安定である事、過去へ遡っても元の場所に帰れるかわからず、しかも世界線が分岐するだけでこの世界の結末は変わらない事。  第一、過去へ戻れば自分達がいるがそれはどうするのだ…などと問題点を挙げてタイターはこれを制止した。  しかしその実は、彼らを自分と同じ時の牢獄の虜囚にしたくはなかったのだ。一度やり直す手段を覚えてしまえば、何度も何度もやり直そうとする。まさにタイターがそうだった。  そしていつしか、繰り返す無数の世界で法子と目取真も、心を磨り減らしてゆく。彼らが狂ってゆく様など、見たくはない。  …人はただ一度の生を、力一杯生きる。それがきっと、正しい有り方なのだ…。タイターはようやく、そう思えるようになっていた。  しかし、法子はそれに耳を貸さなかった。きっとみんなが幸せになれる道があるはず。過去の自分に会ったら聖板で願いを叶えてあげるといって、戦争を辞退させる。  そして小聖板を受け取り、自分が代わりに再度、最初から聖板に挑戦しなおすのだ。一巡目で得た今回の聖板戦争の知識を生かせば、かなり有利に事を運べる…!  次こそ、織田信長を…いやいや藤原信長でもいいや。今度はあのマロ、もう少し優しくしてやろう。林黒児だって、今度こそ受肉させてあげる。  助けられなかったあの人やこの人だって、助けられるよ。悪くて強い奴らだって、次はきっと勝てるんだから。    …なおも制止するタイターを振り切って、法子はタイムマシンを起動する。続けて意を決したように、タイターを抱えて目取真も飛び乗った。  さして操作が難しい機体ではない。重力操作でワームホールが発生し、入力した日付と時間に向けて時間跳躍を開始しだす。  時空間に突入し、初めての経験に驚きの声を上げる法子と目取真…だが程なくしてタイターの危惧どおり、タイムマシンは煙を吹いてコントロールを失いだした。  そのまま二、三度の爆発を続け…墜落するように時空の穴へと落ちてゆく。その最中、体の殆どが壊れていたタイターはマシンから振り落とされ―――――  時空の彼方へと、消えた。  次に目覚めた時、そこは暖かな光に包まれていた。ここは…天国か。  これだけ無数の平行世界があるのだから、天国だって一つくらいはあるのかもしれないな。そう言って体を起こそうとする…が、動けない。  かろうじて首を動かし、横を向くと…そこには横たわるスペースブラザーズ、金星人の女性オーソンが横たわっている。  その手前には、グレイの姿も…。彼らは死んだはず。遺体は確か、タイムマシンに横たえていたはずだ。使い魔たる彼らは死ねば消滅するはずなのだが…。  ああ、目取真たちはどこにいる。まさか、助からなかったのか。ぼんやりと考えを巡らせるタイターの前に、ひとつの影が現れた。 『 やあタイター。おぼえているか。第一次聖板戦争で会った、サンジェルマンだ。今日は君に紹介したい人物がいる。…おい、来たまえ。』  そして、もうひとつの影が…その背後から現れる。なんという事だろう。その顔は、よく見知った顔だったのだ。 『 ようこそ、時空要塞グランアスカへ。歓迎しよう、ジョン=タイター。…いや、グレートローニンタイターΩ? スーパータイターZかな? 』  ニッコリと笑ったその男は、その手に奇妙なマスクを持っていた。まるで、80年代日本特撮のヒーローのような…。 『 とある平行世界で、第四次聖板戦争が始まる。君の仲間たちが危ない…行ってくれるね、タイター。』  目を閉じ、しばしの沈黙の後…タイターは、答えた。 『 俺は――――――――。』  《第四次聖板戦争に続く》