・人物  数年前に裏路地で開業し、主に人物捜索や反社会的組織の調査を稼業とする若き女探偵。  成人したての女性ということで周囲から甘く見られがちではあるが、その捜査能力や胆力はベテランもかくやと言われるほど。  本来は江板市に事務所を構えていたが、旧友と会うために訪れた石枝市に不穏な気配を感じ取り、聖板戦争へと足を踏み入れることとなる。  組織や派閥に属さないフリーランスの探偵ではあるが、凶悪犯罪が起こった場合は独自に調査を実施。  卓越した観察眼や交渉術で得た情報を提供したり、時には自ら犯人の許に赴いて警察に引き渡したりするなど、  治安維持に対する貢献も著しい。捜査当局からは胡散臭がられている側面もあるが、その手腕は認められているようだ。  「瑠璃色」と例えられる青い髪と目が印象的。実は人を惑わす魔術の使い手であると噂され、  実際に彼女と事を構えた犯罪者の多くが錯乱、あるいは失神した状態で警察に逮捕されているということもあり、  その道に通じる人間にとって「瑠璃色の魔女」の通り名は一種の都市伝説として恐れられるまでになっている。  現役の大学生であり、江板市近辺の大学で法学部に在籍。  暴力団などの反社会的組織の撲滅をテーマにした研究を進めているが、ただ単に取り締まるのではなく、  「如何にして彼らの意欲を社会復帰・貢献に向けさせるか」を主眼に置いた研究テーマは周囲から関心を集める。  石枝市にいる間は当然通学はできないため休学扱いだが、  同級生から講義データをメールで受け取り、課題レポートを講師に送信する形で出席日数をクリアしている模様。  趣味はチェスのような盤上ゲームからポーカー等のカードゲームなど様々。  心理的駆け引きやプレイヤーの戦略眼に左右されるゲームを好む傾向が強い。  インターネットを使ったオンラインセッションにも積極的に参加している。  紅茶が好みで、一日の終わりには近くのカフェで一服するのが日課。  ……だったのだが、ある日ふと立ち寄ったバーで供された紅茶が気に入り、  今では毎日そのバーに通い、元暴力団組長だというマスターとの談笑に花を咲かせている。 ・外見  若干釣り気味の大きな目と、短めにカットした髪が特徴の「クール系知的美人」。  先述のとおり瑠璃色の髪と瞳を持つが、これはある事件によって体質が変化したことによるもので、  本来は黒髪に灰色の目。  一見華奢な体型はいわゆる「出るところは出ている」タイプであり、これも交渉の際の武器になりうる……が、  あまり凝視しすぎると怒られるのでやめておいたほうが賢明である。 ・日常の行動  探偵と学生という二足のわらじを履いている関係上、平日は捜査資料とレポート課題に没頭しがち。  「あれだけの捜査資料と大学の課題を、よく同時にこなせるな」とは旧友である喧嘩屋・灰原怜治の弁。  そのため平日に過ごせる自由時間はあまり多くはなく、余った一時間程度をチェスやカードゲームのオンラインセッションに費やす程度。  拘束時間の長い平日の反動か、休日・祝日は一週間のストレスを纏めて発散するかのように朝から夕方まで外で過ごすことが多い。  主な行動範囲は「ポセイドン」や商店街での買い物、森林地帯やビオトープ等での散策等。  特に商店街には滅多に出回らないような掘り出し物の文具や茶葉が手に入ることがあり、ほぼ毎日顔を出している。  美人であることも手伝って、商店街の人間からはほぼ顔を覚えられているようだ。  一日の終わりは元暴力団組長が営業しているというバー「HILL」を訪れる。  最初は店の性質から若干居づらさも感じていたが、今ではマスターとはよき話し相手となっている。 ・戦争時の行動  普段は石枝市をテリトリーとする暴力団などの反社会的組織の動向を調査している。  しかし思いのほか大小様々な組織が入り混じり、混沌としている裏事情を一人で把握しきるのは困難であるため、  旧友である怜治を含めた人間に協力を要請し、情報源として活用している。  そうした調査の最中、違法薬物が町中に出回っているという情報を入手。  薬物の出所を探し当て、いずれはその源流を根本的に叩き潰すつもりでいる。  戦争参加者としては、周辺に被害を及ぼす参加者を優先して排除に向かう。  自分の思いに賛同しそうな者とは積極的に協定を持ちかけ、逆に持ちかけられた場合は喜んで応じる。  彼女自身は「聖板戦争の終結」が第一目標なので、他の参加者の叶えたい願い如何によっては、  自分の獲得した魂を譲渡することも厭わない。  しかし、藍澤薫自身は気づかぬことではあるが、他の魔術組織は常に監視の目を光らせている。  もしも彼女が目立った行動をとろうとした場合、異端者とされ刺客が差し向けられることもあり得ない話ではない。 ・戦闘スタイル  魔力を用いて人工精霊を生成し、使役する。  基本的にはサーヴァントの弱点を補うように動き、状況の変化に合わせて的確にサポートを行う。  魔術師としての実力としては、以前は単なる厄除けの魔術を使える程度であったが、  度重なるサーヴァントとの戦いで《自身のイメージを具現化する》術に目覚め、  それ以降の研鑽の結果、多彩な攻め口で相手を翻弄、手持ちのサーヴァントが付け込める隙を作って  一気に制圧するという戦闘スタイルを確立した。  一撃の威力はさほど重いわけではないが、幻影や瞬間移動など手を換え品を換え戦況を優位に運ぶ様は  まさに《技巧派》の手本と言われるほどの腕前。    自身のパートナーや共闘相手の性質を十二分に理解し、並外れた判断力で効果的に動かし勝利をもたらす様は  まさに《軍師》といえるが、味方が窮地に陥れば戦略的価値観を無視して救援に向かうなど《甘さ》も言動の端々で散見される。 ・パートナーについて  四年前の第一次戦争の頃からの戦友にして、兄であり、忠臣であり、そして憧れの人。  出会った当初はその気の短さや抜けている部分に辟易していたものの、  ひたすら誠実で自分を時には影ながら、時には矢面に立って守ってくれる彼に対して、  徐々に尊敬と憧れの念を抱くようになった。  以後の四年間共に戦ううちに、彼に対する感情は憧れから恋心に、そして愛へと変わりつつある。 ・来歴  ここではない世界――別の時間軸において、過去三度にわたる聖板戦争に参加し、そのことごとくを最後まで勝ち残った"ファイナリスト"。  12歳の頃に母親と死別し、ジャーナリストであった父も多忙のため疎遠となる。    そして15歳の頃、英霊「ローラン」を召喚。最初の聖板戦争に巻き込まれる。  当初は常軌を逸した殺し合いに対して戸惑い、ただ怯えるしかなかったが、  一般人が巻き込まれ傷つく現状を終わらせるべく果敢に戦いに身を投じる。  この時、未熟な彼女の魔術の腕を鍛えたのが当時修行のため日本を訪れていた執行魔術師リリィ・オブライエンである。  薫とローランを完膚なきまでに叩きのめした彼女は、「いざという時は自分の手駒として行動する」という条件のもと、  薫に自分のもつ戦闘技術を可能な限り叩き込み、再び放浪の旅に出る。  それにより薫は単独でもある程度は、他のマスターと一対一で渡り合えるようになったのである。  ところが戦争も佳境を迎えた頃、敵サーヴァントの本拠地の崩壊に巻き込まれ、英霊の間へと転移してしまう。  間もなくローランの「願い」によって現世への生還を果たすが、そこで彼女が「視た」ものは、  彼女の存在そのものを永久に変えてしまうこととなる。  その後、弱い人々を守りたいという思いから警察官を志すが、第二次聖板戦争の際の綿貫浩三巡査長との出会いから、  「組織という枠組みの中ではできることに限りがある。一人くらい組織の枠の外で動ける人間が必要だ」  との考えから探偵への転身を決意。父が情報源として利用していた探偵・狩谷修二のもとで二年の修行を積む。  第三次においては、目取真重雄や小田吉法子といった参加者と出会う。その能力の未熟さに不安を覚えた彼女は、  かつて師であるリリィが自分にそうしたように、魔術の手ほどきを施すことを申し出る。  彼らと共闘する中で、自分の志を受け継ぐものが現れたことを嬉しく思う傍ら、  戦況の変化によって彼らを残して戦地に赴かなければならないことに一抹の不安を感じていた。  彼女の不安は最悪の形で的中する。目取真達は強敵との戦いで敗れ、命こそ失いはしなかったものの、  決して消えることのないであろう悔恨を残すことになってしまったのだ。  それに輪をかけるように、熾烈を極めた戦争の結果天射市は壊滅。薫自身は戦いから生還したが、  弟子達を十分に鍛えられなかったこと、多くの犠牲者を出してしまったことに対して、  全ての責任を自分に課し続けることになる。  そして来る第四次聖板戦争。  石枝市を訪れた薫は、久しぶりにリリィと再会する。  簡単な挨拶の後、リリィはこう切り出した。  「あの時の約束、覚えているな?」  果たして今回の戦争は、彼女に何を齎すのか。 ・リリィ・オブライエンの手記  ――私は、気まぐれに弟子を育てるつもりで、途轍もない化け物を解き放ってしまったのかもしれない。  《幻霊具現》――自身の描いた思念を精神世界で具現化、幻影として投影する術。  カオルにはそのように説明したし、自分でもそう信じて疑わなかった。  しかし、それでは説明できない事象が、今回の戦いで幾度も起こったのである。  彼女の戦闘スタイルは、多種多様な魔術を駆使して相手を翻弄するものだった、と記憶している。  それは最初に出会った頃と変わらぬ闘い方故、今更口をはさむつもりはない。    問題はその術の密度だ。    《投影》の魔術の最大の欠点は、魔力の消費量の高さと詠唱の手間だ。  そのために通常は、今では失われた魔術の触媒を一時的に具現化させる程度の手段にしか用いられない。  武器を大量に投影し、それを次々に放つなどという荒唐無稽な真似は到底不可能なのである。  しかし、カオルと手合せに及び、その荒唐無稽な光景がまさに目の前で繰り広げられたのだ。  ひっきりなしに現れる、幻獣、霊鳥、そして妖虫の群れ。  掌から雨あられと放たれる魔弾の嵐。  それらが間断なく、矢継ぎ早に繰り出されるのだ。    まるで古の魔術師のみが行使する《高速神言》ではないか。  私はそのデータを本国に持ち帰り、独自の伝手を使って解析を試みた。  その結果――信じたくないことだが――以下のような知見を得るに至った。  結論から言おう。  カオルの身体の中には、個人用にダウンサイズされた《英霊の間》ともいうべきものが埋め込まれている。  そしておそらくは、英霊を召喚するためのコードも一緒に。  本来英霊をサーヴァントとして召喚するには、儀式のために途方もない手間を必要とする。  さらに、それを維持するためには大量の魔力も必要だ。  彼女の持つ英霊の間は、オリジナルの聖板とは比べものにならないほどに小さい。  そのため一般的な英霊のように、サーヴァントとして使えるようなものを召喚できるわけではない。  それこそ、名もなき戦士の霊や多少力のある霊獣を呼び出すのが精々といったところだ。  しかしこれをサーヴァントに置き換えてみると、《ほぼ何のリスクもなく》《大量に》召喚できるところが極めて異質なのである。  この事実は私の胸の中だけに秘めておかなければならない。  他人は勿論、カオル本人にすら知られることは許されない。  時計塔や聖堂教会といった魔術組織は、彼女のような異端の魔術使いを決して放置はしないだろう。  ましてや、それが組織間のバランスを覆しかねないような代物ならば。  賢明な彼女のことだ、この力を私利私欲のために悪用するようなことはないだろう。  私の抱えるもう一つの懸念については、考慮する必要はなさそうだ。  今のところは、彼女を《敵》から守るべく最善の手筈を整えなければ。